５２・・・４０ ページ2
・
卓の上で固く握られたサトシの拳にそっと手をかさね、ニッと笑う。
「だからさ、俺にはちゃんと痛いときは痛い、辛いときは辛いって言ってよ。
傷は俺が治してあげるからさ」
(今までずっと隠してきたんだし、そう簡単には変えられない…か)
何も言わないサトシにまた一つため息をついて、カズは立ち上がった。
「じゃあ、俺、行くね。また様子見に来るから、ちゃんと食べて体力回復させること」
そう言ってカズは出て行った。
「…カズ、ごめん」
カズが出て行った扉をしばらく見つめ、サトシは小さく呟いた。
・
その日の昼過ぎ、サトシはシエラに会うために王宮へ行かねばならない。
サトシは休職中のため親衛隊ではなく公爵家当主として王宮へ上がることになるのだが、
それが今、サトシを大いに困惑させている。
普通なら親衛隊の隊服に略式のマントを羽織ればよいのだが、名門貴族ウォルトリヒター家の当主ともなればそれなりに格式をもった服装でなければならない。
若い当主が恥をかかぬよう細心の注意を払って、アランが整えた服に身を包んだサトシは落ち着きなく居心地悪そうに立ち尽くしている。
「ねえ、アラン。俺、隊服で行きたいんだけど」
「なりません」
「こんな服装、似合わないよ」
「何をおっしゃいますか。とてもお似合いですよ」
上等の生地を使い、光沢のある黒い糸で手の込んだ刺繍を施した紺色の上着。
首元から覗く絹のシャツはつやのある青灰色でビロードの黒いタイに燻し銀の細工ピン。
丈の長い上着に合わせた細身のズボンに膝下までのブーツ。
余分な装飾は排除されており細身のサトシに良く似合っている。
華美なものを極端に嫌うサトシに譲歩した選択だったが、サトシを困惑させるには十分すぎるものだった。
「ねえ、アラン。ほんとに俺、これ着て行くの？隊服じゃダメ？」
何度も情けない顔でアランに訴えていたが、頑として聞き入れてはくれなかった。
「なりません。
本日は王女殿下だけでなく、国王陛下にもご挨拶されるのでしょう。
公爵家当主としての身なりは整えていただきます」
アランの言い分は至極もっともで、誰もサトシに味方してはくれなかったのだ。
「サトシ。とても素敵よ。どこから見ても立派な当主だわ」
アイリーンも嬉しそうに微笑む。
「気をつけてお行きなさい。堂々と胸を張ってね」
・
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 110人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ＡＫＩＲＡ(プロフ) - ミルクさん» ミルクさん、コメントありがとうございます〜楽しんでいただけてとっても嬉しいです。このお話に三男は出てこないし、次男もちらっとでただけ（汗）ミルクさんのご贔屓は出てきましたか？他のお話も是非！そしてよかったら感想を教えてくださいね。 (2020年9月12日 22時) (
レス) id: 4512a7e1db (このIDを非表示/違反報告)
ミルク(プロフ) - とても楽しくて一気見しちゃいました！あとの二人がいつ出てくるのもとても楽しみになりました！更新頑張ってください！ (2020年9月10日 9時) (レス) id: 40fefb6cd8 (このIDを非表示/違反報告)
ＡＫＩＲＡ(プロフ) - bunkichiさん» 過去編長かった〜（汗）我ながら呆れてしまいます。描きたいことがたくさんあって、欲張るからこんなことに…このパートもあと少しで一杯ってところでやっと現在っていう（笑）この後、少しでも隊長らしいところをお届けできるよう頑張ります!! (2020年9月6日 23時) (レス) id: 4512a7e1db (このIDを非表示/違反報告)
bunkichi(プロフ) - AKIRAさん、こんにちは。過去編終わりましたね。最初からまた読み直して、過去編は1年前の出来事、レックスさんに「非業の死」と言われて動揺しちゃったところにちゃんと繋がりましたよ。親衛隊長なのに小柄ですごく可愛らしい智くんが目に浮かびます。ステキです。 (2020年9月6日 7時) (レス) id: b3195af20e (このIDを非表示/違反報告)
ＡＫＩＲＡ(プロフ) - bunkichiさん» bunkichiさん、こんばんは〜ちょっと明るい感じになりましたが、もう少しで過去編終わります。が、このパートに入りきらないことが確定〜〜！少し入りきらない（泣）過去編だけの話にするべきだったかなぁ…今更だけど（笑）ということでもうしばらく続きま〜す。 (2020年8月22日 1時) (レス) id: 4512a7e1db (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ＡＫＩＲＡ
| 作成日時：2020年7月19日 1時
