快晴を翔ける (ページ2)

今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:26,690 hit

川風ページ2

.

変わらない日常。
優秀な兄に追いつく為に、友達を犠牲にした学校生活はひどくつまらないものだった。そもそも、中学の頃に猛勉強したおかげでギリギリ入った県トップの進学校で私に遊ぶ時間など無かったのだが。

参考書だけに視線を落として、周りを見ようとしなかった私の前をひらりとプリントが遮る。いつもなら私の勉強の邪魔をしないように、と親切にも机の端に綺麗に置かれるプリントが、後ろに回せと言わんばかりに参考書の上に乗っていた。

首を傾げながら顔を上げた先、私にプリントを流したであろう前の席が視界に入る。
背もたれに腕を置いて、椅子に反対向きに座る男の子がこちらを静かに見つめていた。茶色がかった黒髪を揺らし私と一緒に首を傾げた彼はプリント回さんの、と切れ長の目をぱちりと大きく瞬いた。

校則アウトの緑のパーカーをブレザーの下に着た彼は、目に掛かる程の前髪の隙間からじ、とこちらを見つめる。鮮やかなライムグリーンの瞳が私を見つめている間、まるで時が止まったように私と、そして彼の呼吸だけが鮮明に聞こえた。

トリイ、と呼ばれた彼は生返事を返しながら席を立つ。パタパタとドアの方に向かっていく背中を追いながら脳は彼の顔と、名前を反芻する。

「トリイ、なんて居たっけ？」

【川風(かわかぜ)】
川面を吹きわたる風。