【ヒロアカ】飛んで火に入る (ページ6)

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入院七日目、俺は久々の私服に袖を遠し、病室を出ようとした。

一週の内に、おかしな体験をしたものだ。

隣の女はいい奴だった、ただあの女の両の親はきっと冷たい人間だった。きっとあの女の先は長くないと知りながら、それでも見舞いに来なかったのだろう。

あの女は、寂しく、なかっただろうか。

たくさんの思いや、そういう気持ちがたくさん交錯してしまって、俺は、どうしても泣かざるを得なかった。酷く切なかった、虚しかった、この手で救えないものがあることを、ようやく思い知ったような心地がした。

だらしなく病室の床に座り込んで、べそべそと泣く俺はさぞ滑稽だったろう。何もかもがどうでもよくなって、しばらくの間、自分が泣いている、こんなおかしな状況を客観的に楽しんでいた。

「もし、隣の病室におりました、女の………両親ですが、」

「………………どうぞ」

少し赤い目をした俺を訝しげに見た後、すぐにひとつのメモを差し出した。遺書、と書き残された、遺書というにはあまりにも短すぎるそれを、俺はすぐさま読み上げる。

『遺書、隣の病室の彼

もう、時間がありません、思い付いたことをとりとめなく、とにかく書き綴っていきます。だから初めに謝っておくわ。ごめんなさい。
あなたがはじめにご挨拶に来てくれて嬉しかった
あなたは私の両親を冷たい人だと思っていたようだけれど、違うの。生かすために必死で働いてくれてたのよ、寝る暇も惜しんで
最後まであなたの名前を聞けなかったのは心残りだけれど、私の名前も教えられませんでしたし、きっとそれでおあいこですよね
ありがとう、楽しかった』

ああ、ああ。なんて。どうしてここまで美しく生きてこれたのだろう。狭い檻に閉じ込められて美しいその外の景色も知らず、愛の義務に課せられた両親にも最期まで会えることなく、自分の名前さえ分からなくなるまでこんなになって。それでも信じて、愛して、愚かにも。

「クソ………ッ」

訳も分からずに涙が溢れる。たったの一週間、関わりがあったのはその間の数日間。何をそんなに思い入れるところがあった？わからない、分からないままに俺は、こんな女に焦がれている。

それでも、この感情にひとまず名前をつけておくならば、きっと「恋」や「愛」に近かったのだろうとおもった。

順を追って、俺はあの女の存在を思い出そうとした。

あの女は、白かった。

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