28 ｢…よかった」 ページ28
鼻で、ふかいふかい、深呼吸を一度した。
｢………さっきよりは、マシ？｣
｢…は、｣
｢傷。傷だけじゃなくて、苦しいのとか、…ほんのちょっとは、軽くなった？｣
｢は、……っはい｣
｢……そ、っか｣
こんのすけさんに顔を向けて、そう聞いた。狐さんは、自分のした返事にすら怯えていた。今もあたしに、はい、って答えたあと、すぐさまその言葉をなかったものにされる悲惨な暴力が降ってくるみたいに、畳に目を縛り付けて体を縮こまらせていた。
………言おうか迷った。でも、言わずにはいれなかったし、少しでもあたしが、「あなたを傷つけるなんて、微塵も、1ミクロンも考えてない」人間だってことを分かって欲しかった。その言葉を言うのに、すごくすごく時間がかかった。きゅ、と一度唇を噛んだあと、すごく小さな声で言った。
｢……………よかった」
｢っ、」
こんのすけさんは血で染まった毛束と小さな肩をびくりと震わせて、ふるふると泳ぐ目をもう一度あたしに向けた。何かを確かめるみたいに。あたしは、目を逸らしちゃいけない気がして、その丸い、黒く濡れた瞳を見ながら繰り返し言った。ほんとだよ、ほんとのことなんだよって、思いながら。
｢…よかった」
｢…、」
｢…」
……でも、それ以上は何も言えなかったし、言葉も思いつけなかった。あたしはあなたを傷つけないよ、とか、大丈夫だよ、なんて言ったところで、この狐さんは、………このあと、………消えちゃうんだ。その事実が、あたしの言おうとする言葉を、全部殺して無駄にしてしまった。
(ああ)
そう考えるとすごい苦しいな。胸が、ここに来てからずっとあたしを支配してる不安と、そして悲しい同情にぎゅうっと締め付けられた。
｢…………わ、私めは、｣
｢！」
｢…っ」
こんのすけさんは、あたしの目を見ていた。あたしと目が合った瞬間にまた、まるで口封じでもされたみたいに口を閉じたけど、何度も何度も大きな息を繰り返しながらあたしを見つめていた。
こんのすけさんは、あたしを通して何かを必死で、頑張っていた。それがすごく伝わってきて、あたしも目が逸らせなかった。
｢、私め、は」
こんのすけさんがその瞳を、再び畳の上に落として、
それからまた、どれくらいの時間がたったんだろう。
｢……私めは、審神者のサポート役として、この本丸に置かれておりました…、｣
長い長い沈黙の後、こんのすけさんは、ぽつり、と静かに声を発した。
29 ｢この本丸で…？｣→←27 ｢………、……最低じゃん……｣
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ゆり - 面白かったです！！続編も気になります。見てみたいのでパスワード教えて下さい。お願いします(＞人＜;) (2022年5月4日 17時) (
レス) id: a0139c2d82 (このIDを非表示/違反報告)
plus__m(プロフ) - 登場人物達の感情や情景がとても細やかに書かれていて、読んでいるだけなのにその場を身をもって体験しているような気持ちになってとても面白いです！特に緊迫したシーンは息が止まっていることも忘れて読んでました笑。続編の加筆修正終わるのを楽しみにしております！ (2022年4月19日 20時) (レス) @page50 id: 5adad14c72 (このIDを非表示/違反報告)
キャンドル(プロフ) - めちゃくちゃ面白いですね、この作品！続き、楽しみに待っております！ (2022年3月30日 20時) (レス) @page50 id: ff7e3e1da7 (このIDを非表示/違反報告)
白夜ナイ - 続編のパスワードってなんですか？気になるんですがパスワードが分からなくて読むことができません！教えてくださいm(*_ _)mm(_ _)m (2022年3月25日 22時) (レス) id: d118b4d7f4 (このIDを非表示/違反報告)
Momo_Tarou(プロフ) - 鳥さん» 続編おめでとうございます！！！絶対絶対絶対×∞に夜見に行きますので！！！ (2020年2月26日 7時) (レス) id: 55132ee02b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鳥 | 作成日時：2020年1月29日 3時
