16 約束 ページ16
「それが、覚えてないんです…。顔も名前も。思い出せそうで思い出せなくって…」
下の名前でもいいから覚えてたら、俺だと名乗り出れたけれど、名前も顔も覚えてないとなると、名乗り出たところで信じてくれるかどうか…。
ぐっと気持ちを押し殺すと、彼女は続けて話した。
「また花火大会に行けば思い出せそうな気もするんですけどね」
「Aはそいつの事思い出したとしてどうしたいん?会いたいん?」
「んー、会えるなら会いたいですね。今でも好きな人なので」
「え…」
今、なんて言った…?
「あ、今長い片思いだと思いました?一応他の人ともお付き合いはしてみたんですよ?でも、やっぱり彼を忘れられなくって、それが原因でいつも振られちゃうんです」
彼女は少し悲しそうな表情で、カランカランと氷が入っているお酒のグラスをくるくると回した。
「一度会えばすっきりすると思うんですけどね。まぁ、年的にも結婚しててもおかしくはないし、してたら諦めもつくし、会えないなら彼を超えるいい人を見つけるしかないかなーって」
無理して笑っている。
そんなの、当人じゃ無くてもわかるくらいに。
俺だという証拠が無くてもいい、彼女が辛い思いをしているならもう全てを明かしたい。
「あのさ、その男の子なんやけど…っ!」
ーピリリリッ
「あ、ごめんなさい!」
タイミング悪くテーブルの上に置いていた彼女の携帯が鳴り出した。
慌てて携帯の画面を見ると、直ぐにまた元の場所に戻した。
「友達からの連絡でした。…で、何でしたっけ?」
「いや…」
どうしよう。
折角のチャンスだったのに、言うタイミング逃した。
改めて彼女に言う勇気も正直無く、そんな時俺は最善の案を閃いた。
「あのさ、その姫路花火大会俺と行かへん?」
「…え?ヒカルさんと?」
「俺もそろそろ実家に一度帰ろうかなーって思ってたとこやし、ついでに花火も久々に見ようかなって…。Aの都合が良ければやけど」
「ヒカルさんがいいなら、行きたいです!」
先程までの表情と違い、余程嬉しいのか満面の笑みを浮かべている彼女。
決めた…。
その花火大会で彼女に全てを伝えよう。
俺があの時の男の子だって事も、俺もずっとAのことが忘れられず好きだって事も。
信じてくれるか難しいかも知れないけど、それでも俺達の思い出の場所で改めて伝えたい。
あの、姫路の花火大会で…。
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揶揄 - 最近見始めました!すごく面白いです! (2019年9月22日 9時) (レス) id: f13e29755c (このIDを非表示/違反報告)
虎苦迷花さん推しのぴかちゅう - まぢすこ…(( (2019年9月21日 20時) (レス) id: d00440de79 (このIDを非表示/違反報告)
金亀子?(プロフ) - めちゃめちゃ面白いです、!!! (2019年9月7日 23時) (レス) id: a3d0a4cc33 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:如月香葉 | 作成日時:2019年7月30日 22時