赤葦京治の寝起きは悪くない【赤葦京治】 (ページ47)

今日:5 hit、昨日:0 hit、合計:58,906 hit

（スピンオフ）　惚れ薬６ページ47

.

藍沢さんみたいに髪をきれいに伸ばしてみようか

運動、少しは頑張ってみようか

無口でオトナな振りでもしてみようか

惚れ薬があればいいのに

何度も思った

「お、おおはよう赤葦くん」

「おはよう田中さん」

綾ちゃんを教室に押し込んで、

自分のクラスに戻ろうとしたら

着替えて階段を上がってきた赤葦くんにばったり会った。

落ち着いた声

綺麗な瞳にまっすぐ見つめられて

心臓をキュンと掴まれる。

「あ、あのね、家でクッキー焼いてきたんだけど、よかったらどお？朝練後でお腹空いてない？！あ、でも本当に本当に餓死寸前だったらでいいんだけど、……食べてほしいなって」

「ははっなにそれ」

緊張でどうしようもないくらいどもってしまった私を

変な目で見るでもなく、

表情筋を緩めて優しく笑ってくれる。

は、反則です…

赤葦くん、その笑顔はまぶしすぎます…！

赤葦くんが私の目の前で笑ってる

それだけで私の心は、まるで春が来たみたいに舞い上がる。

赤葦くんが「いただきます」と述べて、

綺麗な指先でクッキーを一枚つまんで口に入れる。

わ、赤葦くんが私が作ったクッキーを食べてくれてる…

ど、どうしよう、砂糖と塩間違ってたら…

何回も確認して味見もしたけど、

万が一赤葦くんが食べた一枚だけすごくまずかったら…

「ん、美味しい」

ぐるぐると思考を巡らせて今にも倒れそうになっていると、

ほしかった言葉が、欲しかった声で、頭の上から降ってくる。

「ほ、ほんと？」

「うん。

田中さんの彼氏はいつも美味しいもの食べさせてもらえて幸せだね」

綾ちゃん

例えば、万が一にでも学年一可愛くたって、

好きな人に見て貰えなくちゃ、

なんの意味もないの

本当はわかってる

もし惚れ薬があっても

そんなもので手に入れた心なんて虚しいだけって

「…うん」

「ごちそうさま。じゃあね」

予鈴が鳴って

教室に入っていく赤葦くん

去りゆく背中にバレないように

静かに目元を拭った