赤葦京治の寝起きは悪くない【赤葦京治】 (ページ19)

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その日は雨が降っていた。

昼休みになり、グループで昼食をとらんとする生徒が入り混じっている。

「赤葦飯食おうぜ」

友人がずるずると椅子を引きずり、俺の机に弁当箱を乗せる。

自分も持参した昼食を広げ、いただきますと一言添えて箸を動かす。

前の席の彼女は、昼食を机に広げる事もせず、しとしと降りしきる雨を見つめている。

今日も彼女はどこか物憂げだ。

すると彼女の背後から、紅茶の紙パックを2つもった1人の女子が現れ、

忍び寄った末、その1つを不意に彼女の首元にあてがった。

『っ！？……なんだ瑞希か」

「Aもしかして凹んでる？」

『暇だなって思っただけ』

おそらく部活仲間であろう。

楽しそうに絡む瑞希と呼ばれた友人に対して、藍沢は気怠くそれをあしらう。

「なんだ。凹んでると思ってお供え持ってきたのに」

『お供えって私死んでないんですけど』

そういいながらも差し出された紅茶を受け取るとき、嬉しさを隠しきれていない藍沢がかわいい。

「いつ部活戻るの？」

『2週間後。瑞希、私がいなくて寂しい？」

「2週間？！璃子抜きじゃ大技練習できないよ？！もう夏目前なのにどーすんのよ！だから言ったじゃん。ばれるよって」

『1週間は続いたよ』

「それでちょっとは好きになれた？」

『失礼な。友情くらいは生まれたよ」

「あんたが失礼だよ」

会話から、どうやら謹慎の噂は本当だったようだ。

あまり彼女の方を向きすぎないように、背中を向けつつ、2人の会話にしっかり耳を傾ける。

その努力の甲斐あって、元彼は1つ年上の他高生で、1年の冬休みにサッカー部のインターハイ予選の応援に行ったとき試合終声をかけられたこと、彼女が告白をオッケーした理由はそれほど深い理由はない事、が判明した。

「別れるって言ったとき彼は？」

『残念だけどわかったって」

「まー璃子の天真爛漫さに気づいたら遅かれ早かれ続かなかったって。どんまい！」

『……』

藍沢はその言葉に言い返せないようでじっとりと友人を睨んでいる。

すると予鈴が鳴り、その友人は「ま、せいぜい謹慎生活楽しみなよ」と自分が飲み干した紙パックを藍沢に押し付けて去っていった。

嵐のような存在が去り、藍沢は小さくため息をつく。

しかしその表情は前よりいくらか明るいような気がした。

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