元柱だった隊員・2【不死川実弥】

87話 ページ37

Aが長い眠りに就いたまま始まった総力戦。

しのぶの訃報を聞いたアオイは思わず、Aの元に向かった。


「石黒様は……」

「まだ目が覚めません！」


なほに返されて、アオイは涙を流しそうになる。

沢山の人が亡くなる中、自分は鬼と戦えない。

それでもまだ、今眠っているこの人ならば、

鬼殺隊最速で、鬼の頸を斬れるだけの力があるAが目を覚ませば、

戦場で戦ってくれれば、まだ救いはあるのではないかと、

アオイはAの手を握った。


「お願い石黒様、どうか助けてください……」


震える声になった。

不安なのだ。

みんなを疑っている訳では無い。

それでも、長い間鬼殺隊で戦ってきた彼女の笑顔が見たい。

また「大丈夫だよ」と励まして欲しい。鼓舞して欲しい。

Aの言葉だと、自然と肩の力が抜けるから。

アオイは涙が溢れそうになるのを堪えて、叫んだ。


「起きて、起きてください！！石黒様！！」


アオイの声に紛れて、どこから聞こえた。


――起きろ！


煉獄、


――起きて！


カナエ、


――起きるんじゃ！


師範、


――起きるのよ


母のような鬼、


――起きてください！


しのぶ、


――A、起きるんだ。


御館様、


――鬼は必ず滅ぼす。
だから、笑っててくれ、A。

――愛している。


実弥。


Aは飛び起きた。


『みんな……』

「石黒様！！」


突然の覚醒に驚くが、アオイはすぐ冷静になると、伝えた。


「あの、今、鬼舞辻無惨との総力戦で」

『っ、実弥は！！』

「訃報は届いていないです」

『……』

「しのぶ様が、亡くなりました」

『っ』

「その鬼は、カナエ様を殺した鬼だそうです。
ですが、その後、カナヲと伊之助さんが頸を斬りました」

『……そう』

「それから、獪岳さんは、上弦の陸として現れたそうですが、善逸さんが頸を斬り、重傷ながらも勝利しました」


Aはそれらを聞くと、右手や左手を握ったり開いたりを繰り返す。

力があるかを確認していた。


『隊服は？』

「こちらに」


きほが籠を差し出すと、Aは身支度を整える。

今現場がどうなってるのかを知らない。

それでも良くないことだけは分かる。


『私も戦ってくる』


相変わらず風のように早いA。

Aは、不安がるアオイの肩に手を乗せ、


『大丈夫だよ』


と笑って、


『行ってくる』


と、刀を持ってこの場を離れた。

アオイは願う。

みなの無事を。


「どうかご無事で」

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