36話 ページ36
Aが運ばれて一日半。
日が暮れて、鬼が活発になり始めた頃に、Aは目が覚めた。
『っ……』
思ったより痛む全身に、Aは息を乱した。
屋根と匂いでここがどこだか分かった。
『ちょう、やしき……』
声を出す振動で胸の動悸が激しくなる。
恐らく、あの戦いで心臓が破裂したのだろうと思う。
だが約十年、常中を続けていたお陰で無意識に止血されていたのだろう。
『ふぅ……だれか……』
起きるのが精一杯だったAは、どうしようと迷った。
すると、丁度こちらの戸が開いた。
「あ、目が覚めたんですね」
『アオイちゃん……』
「Aさん、無事に目が覚めたようで良かったです。
どこか痛みますか」
『全身が痛いよ』
「そうですよね。
Aさんの体は、背骨や骨盤にも罅が入っています。
多臓器損傷、両腕、鎖骨、左足、肋四本の骨折。
それに加えて心臓が破裂しています。一ヶ月は絶対安静ですね」
『わぁお、結構重傷だった』
アオイはAの笑顔に頭を抱える。
笑い事では無いのだが。
『今、どれくらい、経ってるの?』
「Aさんが運ばれてから一日と半分です」
『思ったより、時間経ってなかった……』
「そもそも、それだけの怪我を負って目を覚ます日数が早すぎます。
本来なら後一週間は山場だろうとしのぶさんは見込んでいたんですが」
『ふふっ、驚いたでしょ?』
Aは笑う。
そこにまた戸が開いた。
「おや、目が覚めたんですね」
「しのぶ様!」
「お加減はいかがです?」
『全身痛い』
しのぶが寝台の横に立った。
アオイはしのぶを見ると、では、と言って部屋を出ていった。
二人っきりになった病室。
「Aさん、これだけ重傷になっても、まだ鬼殺隊を続けるおつもりですか。
あなたの体は、もう限界ですよ」
『……それでも、柱だったからね……』
「えぇ、そうですね。心臓破裂して生きてた人は、あなた以外見たことありません。
その状態で生きて、目を覚まして、こうして話せてるのだから、言葉が出ませんよ」
しのぶは拳を握って、顔を顰めた。
Aはそんなしのぶを見て、微笑む。
「あなたまで、帰ってこない人にならなくて、本当に良かった」
しのぶはAの手を握って涙を流した。
しのぶの涙を見たAは、腕が動かせないので、親指でしのぶの手を優しく撫でる。
『私は生きてるよ、しのぶ』
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作者名:やぁと | 作成日時:2021年10月19日 21時