22話 ページ22
昼時を過ぎる頃、実弥がAを背負って蝶屋敷にやって来た。
「待っていました、こちらに！」
「悪ぃ」
しのぶや蝶屋敷の手伝いの神崎アオイが、Aを支えながら寝台に寝かせる。
そこから他の手伝いの子三人と一緒に処置室に運ぶ。
「不死川さん、後は任せてください。
あなたも、そちらでゆっくり休んで、お風呂の用意はできてますから」
「……あぁ」
そうとは言うもの、ゆっくり入れる訳もなく。
実弥は急いで出ると、血に塗れた自身の羽織りを握りしめた。
「A……なんで…」
Aは柱を辞めてから、ここまで大怪我をしたのは、数年前。
Aと合同任務をした時、二人して鬼に貫かれた時以来だ。
あの日の死にかけたAを思い出して、実弥は手が震える。
「頼む、A……死なないでくれ……」
実弥は羽織りを顔に近づけて願うことしか出来なかった。
しのぶはAの背中、胸、腹、腰、腕、足、至る所の傷跡から弾を取っていく。
何発かは貫通しているようで、全ての傷跡を見る限り、合計四つを取り出すことが出来た。
一つは内臓を傷つけていたが、そちらも抜い終わり、最後の傷を縫い終わった。
「……Aさん」
しのぶは聴診器でAの心臓の音を聴くと、しっかり鼓動を打っていて、今は麻酔で寝ているだけだと安心した。
後は温めるだけで、しのぶは指示を出す。
「服を着せたら、しばらくそのままで」
「分かりました」
アオイに指示を出すと、しのぶは実弥に報告のために廊下に出た。
案の定そこに実弥は居て。
「無事に、一命を取り留めましたよ。
仮死状態になったのが幸いでした」
「……そうか」
実弥はホッと一息を着いて座り込んだ。
しのぶは扉を開けて中に促す。
「どうぞ」
「良いのか……」
「柱は麻酔の効きが弱いので。
目を覚ました時に、あなたが隣にいてくれた方がAさんも安心するでしょうし」
「……恩に着る」
実弥はそう言って、中に入っていった。
部屋の中心の寝台にAが寝かされていた。
アオイが実弥を見た瞬間に離れる。
しのぶは実弥の後ろから話し出した。
「抜糸する必要はありますが、傷跡には残りませんよ」
「……生きてればいいんだ」
Aの手に触れた実弥。その手は先程の冷たさとは違い、今は温かい。
親友とは違い、Aは生きていた。
それだけで実弥は溢れる涙を止められなかった。
震える実弥の背中を見たしのぶは、扉を閉めて出ていった。
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作者名：やぁと | 作成日時：2021年10月19日 21時
