37話 ページ37
Aside
不安になって、涙が出てこなくても、
安堵した瞬間に、涙が出てくる。
「落ち着いたか？」
実弥は私の顔を見て、自分の手で涙を拭ってくれた。
私はその温もりに、落ち着いたと思った涙が余計に溢れてきて。
「そんな泣くと目ん玉溶けるぞ？」
そう言いながらも実弥は優しく抱きしめてくれた。
私は抱きしめてもらいながら話し出す。
『あ、あのね、別にね、辛いわけじゃないんだよ』
「あぁ」
『ただ、夏休みが、暇だなって思って』
「うん」
『どうしよう、って思ってる時に、実弥が来てくれて』
「おう」
『それで、ホッとしただけで』
「嫌われてなくて安心した」
その言葉を聞いて私は力強く離れた。
実弥は驚いてるけど、私は首を全力で横に振る。
『それは無い！』
幼い時から、家族は居ても、私を愛してくれる人は居なかった。
けど、この人だけからは、そう想って欲しいって、最初に思った。
結果、今はその願いも叶って愛されてるって、日々実感させられてる。
『実弥を嫌いになるのは、ないと思う』
「そうか」
『でもね、やっぱり、誰かに愛されることには、慣れてなくて』
「うん」
『その、その温もりに、触れると、凄く怖くて』
「うん」
『逆に、私の方が、実弥に嫌われると思う』
そう言って、私の手は震えた。
言葉でそう言っておきながら、私は怖い。
誰かに嫌われることが。
けど、彼はそんなことは無くて。
「俺は、Aを嫌わない。
ガキが何言ってんだって思うかもしれねぇ。」
『……』
「けど、これだけは知っててくれ。
愛されることは怖くないし、何も、見返りはいらない」
その言葉に私は涙が止まらない。
「誰かに愛されるのが、すげぇ怖かったと思う。
親御さんを見てきたなら、尚更」
確かに。
母は、父に何かをして、愛されようとしてた。
物を差し出し、自分の身体を差し出し。
それでも、捨てられた。
愛していたのに。
私は実弥の腕を掴む手が震える。
それでも実弥は優しく私の頬に手を当ててくれて。
「誰かを愛するのは、愛されるのを知ってからでも遅くねぇよ。
Aのペースでいい、ゆっくりでいいんだ」
その言葉を聞いて、私は嗚咽を堪えきれなくなった。
実弥はそんな私を強く抱き締めてくれた。
幼い頃、母や父に求めてた、優しい温もりで。
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作者名：やぁと | 作成日時：2021年10月1日 23時
