第3話 ページ37
Aはビクついた。別に……と少しだけ声を落とす。
「そういうわけじゃない」
「じゃあなんだ」
「ただ」
「ただ?」
「意中の相手、好きな人に変な格好を見られたくなかった」
ポツ、とスマホの画面に水滴が垂れた。1度流れ出た涙は堰を切ったように溢れ流れ、止められない。ただ濡れていく己の目と頬とスマホの画面を、ただ感じるだけがAに出来る事だった。
大袈裟かもしれない。それはA自身わかっている。しかし、わかっていても恥ずかしかった。
あんな適当な格好で、彼の前に出たくなかった。もっとちゃんと、メイクして髪の毛を整えてちゃんとした服を着た状態で彼と会いたかった。
恥ずかしくて、悔しくて。その思いが強く、非がない真希にもあたってしまっている。それも嫌だった。
ありのままの自分を意中の相手に見てもらいたいなんて言う人は、余裕のある人のみ。そしてAは生憎、余裕は持ち合わせていない。それは人一倍強いかもしれない。
Aは弱かった。人一倍。
だからこそ、人にあたってしまう。人にあたってしまう、だからこそ弱いのかもしれないが。
ごめん、と言う声はあまりにもか細い物だった。
自分で自分が嫌になる。
「真希は背中を押してくれたのに」
どうも自分はこういう事に疎いらしい。
真希は目の前の親友を見ながら思った。女子高生として、女子として、恋する者としての事に疎いらしい。
それでもAが棘の事を好いている事はバレバレだったし、彼女が棘の事を気に駆け始めてから、なかなか先に進んでいないのも知っていた。
だから今回のタコ焼きパーティーを企画した。Aには内緒にして。
しかし。
「……あたしこそ、すまない」
結果として彼女を傷つけてしまった。
Aが、親友が上手く生きる事に長けているのにも関わらず、実はめんどくさい程繊細な人間だと、この一年余りで承知していたのだが傷つけてしまった。めんどくさいのは、特にこのような真希が疎いジャンルに関してだとも承知していたのに。
「そこまで、頭が回ってなかった」
タコ焼き機を洗う手は既に止まっていた。
ぐい、とAは自分の腕で目元をこする。鼻水もついた。やっぱ、と鼻声が出る。
「真希が企画した事だったんだ。そりゃそうだよね、真希が事前に材料を用意するわけないもん」
「悪かったな」
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しゆ - 続編が出ました。更新速度は遅いですが、よろしくお願いいたします。 (2021年3月18日 16時) (レス) id: 0614066502 (このIDを非表示/違反報告)
しゆ - 山田憂さん» コメント、そして温かいお言葉……ありがとうございます! これから寒くなる季節、山田憂さんも体調には気を付けてください! (2020年11月3日 16時) (レス) id: 0614066502 (このIDを非表示/違反報告)
山田憂 - 夢主とキャラクターの細やかな心情が刺さりました…。体調に気をつけてお過ごし下さい。応援してます! (2020年11月2日 13時) (レス) id: 2e6603876c (このIDを非表示/違反報告)
しゆ - チベットスナギツネさん» 神作!? ありがとうございます! 嬉しいです!! コメントもありがとうございました! (2020年10月30日 21時) (レス) id: 311275af3f (このIDを非表示/違反報告)
チベットスナギツネ - 神作・・・言いたいことは、それだけです。( ´∀`)bグッ! (2020年10月29日 23時) (レス) id: 4fb9137dc8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しゆ | 作成日時:2020年10月28日 22時