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第3話 ページ35

「パンダ君っ」

 いつも下世話のくせに、と付け足せば撤回してやろうかと脅された。



「でもAはモテると思うぜ」

「えぇ、そう?」

 パンダに言われそんなことないよ、と言いながらも手は頬にあててにやけるのを抑えようとする。抑えきれていないが。

 お世辞とはいえ、褒められるのは嬉しいものである。

「そりゃあ、な。俺ですら嫁にしてぇと思うもんな」

 まじィ? 冗談やめてよぉ。と笑いながらパンダの肩に手をのせた。パンダがマジマジぃと言って己の肩に乗せられたAの手をとり、口づけようと――――無論真似だが、しようとした。



「おかか」

 Aは立膝をしてパンダの方に向いていたのだが、ヘニャリとバランスを崩してしまった。ペタン、と元に座っていた場所――――狗巻の隣に座り込む。

 バランスを崩してしまったのも、座ってしまったのも全ては腕を引かれたからだった。誰に。―――−狗巻棘に。

 向こうは立膝をしている為、座り込んだAが仰ぎ見るようにして彼の顔を見た。彼が? この人が? 狗巻君が? あたしの腕を引いて、おかかって言った? ――――そんな事を考えながら。

 おかか、と言う事は否定と言う事だ。

 何に否定をしたのだろうか? まさか、と考えてしまう。そしてその考えは、胸の中に甘く跳ねる満足感をもたらす。

 そんな調子の良い事を考えてはいけない。己惚れてはいけない。己惚れてしまえば、そうじゃない時――――絶対にそうなんだろうけど――――後々苦しいだけ。

 自分の言い聞かせるが、甘い疼きは言い聞かせれば言い聞かせるほど広がっていく気がする。

 パンダが手に口づけを落とそうとした。その時に狗巻が「おかか」と言った。否定した。腕を引いた。

 嫉妬してくれたのだろうか?

 一瞬でも考えてしまったその自分にとって都合が良いだけの考えは、既に否定をしようにも深く広く根をはってしまっていた。



 ふと、手を引いた本人――――狗巻と目が合う。

 彼も己がしたことに驚いているのか、目を大きく見開いた。

「おかっ、つなっ、昆布!」

 ごめん、そういうつもりじゃなかったんだ。とでも言ったのだろう。慌ててAの腕から己の手をはなす。

 そして、ふい、とAとは反対の方向を向いた。

 一瞬、嫌われたのではないかと暗い考えが頭をよぎるが、それすらも小さな棘の様なものにしか感じられなかった。甘い疼きが胸中を占めているAには。

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しゆ - 続編が出ました。更新速度は遅いですが、よろしくお願いいたします。 (2021年3月18日 16時) (レス) id: 0614066502 (このIDを非表示/違反報告)
しゆ - 山田憂さん» コメント、そして温かいお言葉……ありがとうございます! これから寒くなる季節、山田憂さんも体調には気を付けてください! (2020年11月3日 16時) (レス) id: 0614066502 (このIDを非表示/違反報告)
山田憂 - 夢主とキャラクターの細やかな心情が刺さりました…。体調に気をつけてお過ごし下さい。応援してます! (2020年11月2日 13時) (レス) id: 2e6603876c (このIDを非表示/違反報告)
しゆ - チベットスナギツネさん» 神作!? ありがとうございます! 嬉しいです!! コメントもありがとうございました! (2020年10月30日 21時) (レス) id: 311275af3f (このIDを非表示/違反報告)
チベットスナギツネ - 神作・・・言いたいことは、それだけです。( ´∀`)bグッ! (2020年10月29日 23時) (レス) id: 4fb9137dc8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:しゆ | 作成日時:2020年10月28日 22時

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