第１話 ページ4
やってしまった。と挨拶をした瞬間、Aは後悔する。
今日こそ笑顔で、おはよう！ と言おうと思っていたのに！
そうだとしても、過去となってしまったあの瞬間は、もうやり直せない。
ええ……。とAは目線をそらしながら言う。「それだけだから、じゃっ」
手を軽く上げ、じゃあなというポーズをしながら自分の席に戻ろうとすれば、「ツナマヨ」という言葉が、棘の声でAの耳に入り込んできた。
しかし、なぜここで「ツナマヨ」なのか。
それは彼――――狗巻棘という人間が呪言師の末裔だからである。
「呪霊」は同等、もしくはより強い呪いでしか払えない。よって、呪術師の中には、呪いを駆使し、色々な技を使って「呪霊」を倒す者がいる。「呪言師」もその１つであった。
「呪言師」はその言葉通り、言葉に呪力を込めて放つ者たちの事を言う。
どうやって放つか。
それは、口に出すのである。
その為、彼の場合、普通に喋るだけでも相手に呪いをかけてしまう可能性がある。
なので、おにぎりの具だけで会話をしている、ということである。
先程の「ツナマヨ」は、「おはよう」という意味だろう。
正直に言って、「しゃけ」は肯定、「おかか」は否定、くらいしかAは理解していない。
もう1年ほど、一緒にいるのに。
ツナマヨ(多分おはよう)、を聞いてAは勢いよく後ろを振り返り、彼を見る。棘は、またAが自分を見ている、と気が付いたのか、にっこりと笑う。
笑う、と言っても彼は口元を隠しているので、目が弧を描いたことしか見えなかった。
笑いかけられたであろう本人は、まことぎこちない笑顔を返して、自分の席へと戻った。
「やっちゃった」
後ろの真希の机に頭を突っ伏して呟けば、相変わらず無関心の様な声が降ってくる。
「な、見てたわ」
「ちゃんと深呼吸したんだよ？ 深呼吸をすれば新しい酸素を体内に送り込めて、血液の循環が良くなって、交感神経と副交感神経のバランスが整って、幸せホルモンって言われるセロトニンが分泌されるからさあ！」
「つまりは深呼吸をしたら落ち着く、ってことだな」
「そゆこと」
でも。Aはせっかく朝セットした髪の毛をぐしゃぐしゃとかく。
「ぜんっぜん意味なかった！」
落ち着くどころか、心拍数が上昇した！ そうか、良かったな。ひどい！
尚、この会話、男子陣に筒抜けで、それにAは気がついていないのである。
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しゆ - 続編が出ました。更新速度は遅いですが、よろしくお願いいたします。 (2021年3月18日 16時) (
レス) id: 0614066502 (このIDを非表示/違反報告)
しゆ - 山田憂さん» コメント、そして温かいお言葉……ありがとうございます！ これから寒くなる季節、山田憂さんも体調には気を付けてください！ (2020年11月3日 16時) (レス) id: 0614066502 (このIDを非表示/違反報告)
山田憂 - 夢主とキャラクターの細やかな心情が刺さりました…。体調に気をつけてお過ごし下さい。応援してます！ (2020年11月2日 13時) (レス) id: 2e6603876c (このIDを非表示/違反報告)
しゆ - チベットスナギツネさん» 神作！？ ありがとうございます！ 嬉しいです！！ コメントもありがとうございました！ (2020年10月30日 21時) (レス) id: 311275af3f (このIDを非表示/違反報告)
チベットスナギツネ - 神作・・・言いたいことは、それだけです。( ´∀｀)bｸﾞｯ! (2020年10月29日 23時) (レス) id: 4fb9137dc8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しゆ | 作成日時：2020年10月28日 22時
