＊＊ ＊＊＊＊ ページ7
＊＊＊＊＊＊＊
帰り支度を進める俺の目の前の席で、学級委員の声が響いた。
「佐野君！」
と、結構大きな声を出していたな。
あの真面目で普段は大人しい吉田があんな声を張り上げるなんて。
俺が顔を上げると、佐野が急ぎ足で教室を出ていく後姿を、吉田が落ち込んだ表情で見つめているところだった。
そして、項垂れながら佐野が去った席を寂しそうに見つめる吉田に、俺は声をかけた。
別に慰める為じゃない。
「吉田ってさ、佐野の事好きなんだろ？」
何でもいい。
こいつの弱みを握りたい。
俺は多分そんな風に思って、吉田に声をかけていたと思う。
「え…？な、何言ってるんだよ…。そんなわけないじゃん…」
吉田は明らかに動揺した表情を浮かべて、軽く俺を軽蔑したような目をしていた。
「俺、知ってるんだよね。お前さ、授業中も、休憩の時も、ずっと佐野の事見てんじゃん」
「……」
吉田の顔が真っ赤に染まって行くのが、俺にはとても面白く映っていた。
きっとこいつが佐野の事を好きなのは間違いない。
確証もないのに、なぜか俺はそれを確信していた。
「ち、違うよ…。違うって…」
「それにさっきも佐野と同じ大学行きたいって言ってたし。なんなら俺が佐野に言ってやろうか？吉田がお前の事、す―」
「やめてくれよ！！」
吉田のその声で、一瞬でざわめき立っていた教室が静まり返った。
「"塩��"君って最低だな…」
そう言い残して、吉田も教室を出ていった。
その目に涙をいっぱい貯めて。
「やっぱり好きなんだ…」
俺のそのつぶやきは、教室の誰にも聞こえていない。
＊＊＊＊＊＊＊
―
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 38人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：milkssss | 作成日時：2020年1月11日 18時
