＊＊＊＊＊＊ ページ34
何故俺が佐野君に付いてきてもらわなかったのか。
そんなの簡単だ。
これ以上佐野君が近くにいたら、俺はどうにかなってしまいそうだった。
いや、この後の事を考えると、既に俺はどうにかなってしまっていたのだろうと思う。
あんなに近くに、それに、あんなに密着されたら、俺の理性が、崩れる。
俺の肩に、体に、佐野君の匂いが、体のぬくもりが、残っている。
顔が燃えるように熱い。
ボールが当たったからなんかじゃない。
俺の心臓が激しく脈打ち、全身にくまなく血液を送り出している。
脳までが脈打つのを感じ、その激しさは治まる気配がない。
心臓が痛くて、苦しくて、辛くて、吐き気がする。
叶わない恋をするって言うのも、楽なもんじゃないな。
そう思いながら、俺は少しふらつく足で更衣室の扉を開けた。
早く着替えて、保健室で休ませてもらおう。
俺は自分の制服を入れたロッカーから服を取り出した。
几帳面な性格もあって、その制服はちゃんと綺麗に畳まれて積まれている。
俺は「ふぅ」と少し呼吸を整えて、服を着替えだした。
着替えている最中も、俺の胸の高鳴りは治まらない。
あの時の佐野君のぬくもりも、俺に対して言ってくれた優しい言葉も、あの香りも、その全てが俺の体中の感覚を刺激する。
着終わったYシャツの上からブレーザーを羽織ると、脱いだばかりの自分の体操服を見つめ、俺は佐野君の全てを思い出していた。
その時、俺はふっと自分の積もり積もった欲望が溢れ出して、理性が埋もれていくような気がした。
視線が、ある一点を注視する。
そこには、授業前に佐野君が制服を入れていたロッカー。
そんなこと、駄目なことぐらい分かってる。
分かっているよ、そんなことは。
だけど、俺のこの苦しみは誰にも分からない。
今すぐ、この苦しみから解放されることはない。
俺だって、こんな人間に生まれて来たくはなかった。
誰にも理解されないような、こんな苦しみは俺だって嫌なんだよ。
そう、誰もわかってはくれない。
俺が間違ってるんだろう。
それがこの世なんだ。
理不尽で、不条理な、こんな世なんだ。
これぐらい良いじゃないかなんて、都合のいいことは言わない。
けど、俺だって、少しぐらい…。
少しぐらい…いい目を見たって…。
そして俺は、気付けばそのロッカーの前に立っていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 38人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：milkssss | 作成日時：2020年1月11日 18時
