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「やべ…」
その音に気付いたのか、今まで鳴っていたインターフォンが鳴りやみ、足音が玄関の扉のすぐ前にやって来るのを感じた。
俺はそれ以上の物音を出すまいと、呼吸するのも忘れて、その場でじっと固まってしまった。
「瑞生…。そこにいるのか…」
決して、俺に話しかけているような感じではない。
まるで独り言のような静かな声が俺の耳に聞こえてきた。
「なぁ…俺は…。俺は…」
言葉に詰まるその声は震えていて、顔を見なくても、きっとボロボロに泣いているんだろうと容易に想像できてしまった。
「許してくれなんて…言わない…。だけど、俺は…何すれば…いい…。何すれば…」
お前に何をしてもらっても、もう俺は元には戻らない。
そんなこと、お前にだってわかってるだろ。
どんなに頑張ったって、どうしようもないこともある。
それでも、俺の為に何かしてくれるんなら、もう帰ってくれ。
そう言って怒鳴ってやろうかとも思ったけど、俺は静かに扉の向こうのあいつのすすり泣く声を聞いていた。
「ごめん…。俺…勝手なこと言ってるよな…。俺が、お前にしてやれることなんて…何もないって…分かってる…。もう、元には戻らないってことも…分かってるのに…」
一瞬、俺は胸がぎゅうっと締め付けられ、心拍数が上がるのを感じた。
扉の向こうで、もう何もかも悟ったようなその声が、俺の胸を締め付ける。
短い間だったけど、同じクラスになって、同じ部活になって、約二年間一緒に過ごし、こいつの人となりは嫌って程知ってる。
そしてあの日の事も、本当は…。
だけど、そこで俺は玄関の扉を開ける勇気もない。
なんてことはない。
俺は引きこもって逃げてるだけで、あいつと話す勇気もないのだ。
こんな風に引きこもってるのが、楽なだけなんだから。
扉を開けて、あいつと話しても、何を話していいのかもわからない。
そんな面倒なことが、ただ嫌なだけなんだ。
「瑞生…。俺はお前の事…親友として、同じチームの仲間として…―」
その後の言葉は咽ぶ声で潰れてしまって聞き取れなかった。
「ごめん…。もう…帰るな…」
そして、「じゃあ…」という言葉を残し、玄関の扉の向こうから人の気配は消えた。
息をするのを思い出した俺は、吐息が漏れるほど大きく息をして、階段に腰かけてそのまま膝の上に顔をうずめた。
俺は、ただの臆病者だ…
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作者名：milkssss | 作成日時：2020年1月11日 18時
