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図書室で人が借りた本を丁寧に返したのち、俺はすぐさま校庭へと向かった。
すでにサッカー部の練習は始まっており、キャプテンの柔君が他のメンバーに声掛けをしているのが見える。
彼は、中学校で初めて出会った時から、プロのサッカー選手になるのが夢だと、常日頃から語っていた。
「いつか絶対にプロになって、サッカーで世界中の人に俺の名前を知ってもらうんだ」
それが彼の口癖だった。
俺はそれを聞いて、とても羨ましく思っていた。
だって、俺にはまだ夢というものがない。
将来何になりたいとか、高校を卒業したらどこの大学に行きたいとか、どこに就職したいとか、俺にはまだ、やりたいことも、なりたいものも、何もないのだ。
今も続けているサッカーだって、別に将来サッカー選手になれる訳でもないし、なりたいとも思ってないし、適当な折り合いをつけて続けているだけなんだ。
だから俺は、「このままこの学生生活がずっと続けばなぁ…」なんて、それこそ夢みたいなことばかり考えている。
それでも、周りの皆は受験に向けての勉強を始めていたり、柔君のように部活に全力で打ち込んでいたり。
なんだか、周りを気にしてる俺ばかり取り残されているようだ。
けれど、今の俺が将来の事を考えても、そんなの想像もつかなくて、まるで『死んだあとはどうなるのか』とか、『宇宙の果てってどこにあるのか』みたいな答えのない妄想をするときみたいに、真っ暗で真っ白で何も見えない未来しか思い描けない。
一体俺は、何がしたいんだろう。
周りの空気ばかり読んで、人の顔色ばかり窺って、周りに自分がどう見られているのかとか、そういう変な気を使いすぎて、俺は自分のことについて何も考えてこなかったような気がする。
そんな俺にやりたいことや、なりたいものがないというのも、なんとなくうなずける。
けどこのままいくと、俺はこの先、どうなってしまうのだろうか。
周りの事ばかり気にして、自分というものが無くなっていってしまうのではないだろうか。
柔君を見ていると、そんな言い知れぬ不安や焦りが、俺の心にちょとずつ、暗い影を落としていくのだ。
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作者名：milkssss | 作成日時：2020年1月11日 18時
