溺れる偽愛 (ページ10)

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私の涙が落ち着く間、田中樹はなにを話すこともなく、黙って私が泣き止むのを待っていた。

私だってこんなに涙が出るとは思わなくて、それほどあのペンが気に入っていたんだと思い知らされる。

だって、パパが居なくなったのと同じだもん…。

そのうちだんだん落ち着いてきて、早くなっていた心臓もゆっくりになり始めた頃。

それが彼にも伝わったのか、静かに口を開いた。

『…本当に悪かったよ。ごめん』

「…」

『どうすればいい？』

「…え？」

『本当はペン買ってやりたいけど…父親から貰った物じゃないと意味ないんだろ？お詫びじゃないけど、俺に出来ることならなんでもするからさ』

「…」

『なにがいい？』

そう聞かれて、1番最初に思ったのはペンを返して欲しい。

そう思ったけど、もうきっとペンは見つからない。

”俺に出来ることならなんでもするからさ”

その言葉が、急激に頭の中を駆け巡った。

彼に出来ること…。

そのうち思い出された記憶は、田中樹が周りの女子からキャーキャー言われてる風景。

”女遊び激しいらしいよ"

”言い寄ってくる女の子は全員受け入れてるんだって。しかも取っ替え引っ替え"

紬から聞いた彼の噂。

そして…

"Aだってそろそろ彼氏作った方がいいんじゃないの？"

そんな記憶が蘇って、気付いたら私は…

「じゃあ、…私と付き合ってよ」

『…はぁ？』

そんな事を口走っていた。

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