溺れる偽愛 (ページ39)

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しばらく歩いたあと、ピタッと止まった彼の足。

『ここだよ』

そう言われて顔を上げれば、まぁまぁ綺麗な外観。

かといってお洒落な雰囲気もないし、大衆居酒屋のような感じもない。

至って普通のお店、そんな印象だった。

樹くんの後に続いて中へ入ると、個室のようなところへ案内されて軽く戸惑う。

まさか個室だとは思わなかったから。

『なに飲む？』

「あ、えっと…ビールかな」

『ビールでいいの？ほんとは好きじゃないんじゃないの？ビール』

「えっ…」

ズバッと当てられた答えに息を飲み込んだ。

なんで分かるの…そんなこと。

『だって前ビール飲んでふらふらしてたじゃん。酒あんま強くないみたいだし、無理しなくていいよ』

「…」

『梅酒とかにしとく？』

「うん、ありがとう」

『いいえ～。つまみとか適当に頼むね』

彼が人望を集めるのはこういうとこだろう。

ただかっこいいとか優しいとかじゃなくて、周りをちゃんと見てる。

人をしっかり見れて行動できるところが魅力のひとつなんだろう。

私はまた、彼の新しい一面を知ることができた。

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