夢 ページ36
「俺さ、分かっちゃったんだよね。俺は間違いなく最強だけど、それだけじゃダメだって。俺だけ強くても、この手で救える命なんて限られてる。悲しいことにね。―――さらに、今の呪術界はクソだ。上に立つ連中全員クソ」
「…はい」
「俺は、仲間が欲しい。だから―――強くて聡い仲間を、この手で育てたい。皆で最強になって、俺らを搾取することしか考えてない上の連中全員引きずり下ろしてやるんだ。―――どうだ、面白そうだろ?」
―――それが、今まで散っていった仲間達への弔いだ。
そんな続きが聞こえてきそうだった。
「―――五条先輩らしい、素敵な夢だと思います」
五条先輩は神ではない。
呪術界最強でありつつも、その正体は、ただの人間なのだ。
自分勝手で我儘で、態度が悪くて上に逆らう、反骨精神に溢れた人だけど―――実はとても仲間思いで、優しくて、隣人を愛する心を持っている。…すごく、人間らしい。そこが、五条先輩のいいところ。
「夢、か。夢なら他にもあるけどね」
「え。何ですか?」
含みのある言い方をする五条先輩に、私は尋ねる。
五条先輩は口元にゆるりと弧を描きながら、その形のいい唇を開いて告げた。
「―――俺の夢はお前だよ。宮井」
瞬きを数回して、首を傾げながら五条先輩を見る。そんな私を見て五条先輩は笑い、「つまり、さ」と付け加えた。
「宮井のしたいこと、全部叶えてやりたい。なりたいものになって欲しい。パン屋でも、花屋でも、地方公務員でもいい。帰りにアイス食って帰りたいとか、そんな些細な願いでもいい。…お前がしたいって言うなら、何だって付き合ってやる。宮井の夢が、俺の夢だ」
私を真っ直ぐに見つめながら、紡がれていく言葉。
…そのどれもが、私をふわふわと夢心地にさせた。
「お前が笑って生きられるような世界にしたい。そんで、その隣に俺もいたい。…それが、俺の一番の夢だよ。宮井」
サングラスを外した先に現れたのは―――ひどく、慈愛に満ちた視線。
…やっぱり、先輩はずるいです。
私、もう泣かないって決めたのに。先輩の一言だけで、すぐに泣きそうになってしまう。五条先輩の言葉ひとつひとつが私の宝物で、そのどれもがとても愛おしい。胸の奥にじわりと溶けて、涙腺を刺激する。
―――でも、可笑しいですね。
泣きそうなのに、すごく嬉しくて。
自然と、笑顔になるんです。
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つく(プロフ) - のみさん» のみ先生ありがとうございます…!のみ先生からの励まし、とても力になりました。今後ともよろしくお願いいたします…! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - へかーてぃあ@夢見月*小夜セコム隊さん» オワァ!最初から読んでいただいてありがとうございます…!続編についてもいつか公開すると思いますので、また楽しんでいただけるよう頑張ります! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - 晩鶴紫呉さん» ありがとうございます〜!続編についてもぽちぽち書き進めている最中ですので、いずれ公開します! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - はにゃさん» ありがとうございます!続編もいずれ公開されると思いますので、その際はよろしくお願いします〜! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - 五音さん» コメントありがとうございます!続編については制作中ですので、ある程度アップできる状態になったら公開しようと思います〜! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:つく | 作成日時:2021年1月16日 1時