眠り姫 ページ21
奴がそう言ったと同時に、宮井が視界から消えた。
「宮井―――!」
ぐらりとバランスを崩した細い身体はうつ伏せに地面に倒れ、その表情を見ることはできなかった。倒れて力を失った身体から流れ出す赤。視界の端に捉えた奴の手には、異質な雰囲気を放つ特級呪具。
宮井に触れようと伸ばした手は届かず、気がついた時には喉元を串刺しにされていた。術式が効かない。反撃する間もなく急所を突かれ、俺の身体も地面に倒れた。
奴の気配が消えた。傑たちの元へ向かったのだろう。
それからどれくらいの時間が経ったか。残る呪力と全神経を反転術式に注ぐ。肉体の再生。今まで掴めなかった呪力の核心。死に際で掴むことができるとは、何とも皮肉なものだ。
「…宮井、生きてるか」
ようやく動けるようになった身体で宮井に駆け寄り、その顔を覆う髪をよけて頬に触れる。
宮井の身体から流れる血が、もうほとんど勢いを止めていた。まるで命のすべてを出し切ってしまったかのように、弱々しく滲むだけ。でも、その手はまだ温かい。大丈夫だ、きっと、大丈夫。宮井の身体に触れ、反転術式を使う。
「宮井…、頑張れ…かえってこい」
お前さ、前に言ったよな。
俺が隣にいないと落ち着かない―――ちょっと離れただけで、泣きそうになるって。
それさ、実は俺もなんだ。
お前は一人で任務へ行くことが多いから、俺はそのたびに不安なんだよ。
今頃怪我してないか、道に迷ってないか、道端で変な男にナンパされてないか。そんなことが頭の中をよぎって、そわそわして落ち着かない。
お前が無事に任務から帰って来るたび、「ああ、今回も無事に帰って来た」「生きててよかった」ってホッとしてるの、お前は知らないだろ。
「宮井、死ぬな。まだあの約束、果たせてないだろ…!」
卒業したら、結婚しよう。
あれ、けっこう本気で言ったのに。
お前、アホ面して「え?」とか言ってたよな。
その後、嬉しいって言いながらぼろぼろ泣いて。
表情がころころ変わるお前が、やっぱ好きだなって思ったよ。
これからもずっと、俺のそばにいてくれるんだろ?
だから、こんな所で、あんなわけわかんねぇ野郎にやられてくたばってんじゃねぇよ。
固く目を閉じたままの宮井の顎を掴み、キスをする。
「―――好きだよ…A」
だからまた、その笑顔を俺に見せて。
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つく(プロフ) - のみさん» のみ先生ありがとうございます…!のみ先生からの励まし、とても力になりました。今後ともよろしくお願いいたします…! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - へかーてぃあ@夢見月*小夜セコム隊さん» オワァ!最初から読んでいただいてありがとうございます…!続編についてもいつか公開すると思いますので、また楽しんでいただけるよう頑張ります! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - 晩鶴紫呉さん» ありがとうございます〜!続編についてもぽちぽち書き進めている最中ですので、いずれ公開します! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - はにゃさん» ありがとうございます!続編もいずれ公開されると思いますので、その際はよろしくお願いします〜! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - 五音さん» コメントありがとうございます!続編については制作中ですので、ある程度アップできる状態になったら公開しようと思います〜! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:つく | 作成日時:2021年1月16日 1時