【大幅修正入ります】最強鉄拳をお望みですか？【ONEPIECE】 (ページ5)

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その理由など青年には知る由もない。ただ、天竜人の奴隷だった自分を拾って、まともな人間らしい生活をさせてくれた年下の恩人が、自分が拾われたこの街で生活していることを嬉しく思うのだ。あわよくば、ずっとここにいてほしいとさえ思う。

『＿＿＿＿＿お前も、苦しいよな』

あの雨風が降りしきる夜、黒いローブの人間は青年を拾った。翌日には用済みだからと天竜人から動く拳銃の的か猛犬の生き餌になる運命から逃れるために、命からがら屋敷から逃げ出した先で同じような目をした人間に出会った。
人間はひどく傷ついた目をしていた。

生傷の血がこびりついた布切れ一枚で路地に転がる青年を服が汚れるのも気にせずに黒いローブの中に抱き上げ、人間は青年を拾った。街にある小さな宿屋に青年を寝かせ、医者を呼び衣服を揃え、手慣れた動作でボロボロだった青年を肉の塊から人間へと変えた。青年は久しぶりにまともに泣いた。女は(最初は男だと思っていた)それに、無言で頭に手を載せてずっと横にいた。

その運命の出会いからはや何年経つだろうか。
体も癒えて体重も平均くらいに戻ったころ、青年は若い頃からの目的があると言って海軍に入隊した。訓練を死にものぐるいでこなし、上司からの軋轢にも笑顔で耐え、今や海軍少尉の座についている。並々ならぬ努力と、生まれ持ってしたガタイだけはいい体格で青年は出世街道を駆け上がった。
その青年の申し出に女は最初こそ驚いた顔をしたものの、何故かすぐにそれを受け入れて青年に言った。「好きにしろ」と。その興味なさげな淡々とした口調にすら愛情の欠片を感じるほどに、青年は女の深い情を知っていた。
女は人に優しくすることにむず痒さを感じているようだった。感謝されることに居心地の悪さを感じているように見えた。自分へ向けられた感情に戸惑いを感じているようだった。

それら全て、女が一人で生きてきたことを示唆していた。

青年は女の過去を知らない。聞く必要もないだろうと思った。その黒い双眸に刻みつけられた寂寥と、何かを失いながら生き続ける者の影を見ていた。むしろそれを聞くべきではないと、年上である青年はぼんやりと確信めいた直感を信じて、ただひたすらに女のそばにいた。

唯一になりたいわけではない。それになり得るほど、青年はまっすぐ愚直で信心深くあれるはずもなかったし強くも盲目でもなかった。
ただ、この女を一人にしてしまわないように、恩をささやかに返すように。