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Aの担当は小児科。
あの日もそうだった。
なんでって。
なんで私が生きてるのに
あんないい子たちがって。
こんな言い方したらいけないけど
そういう職業の人って
慣れてるのかと思ってた。
でも、全然そんなことなくて
ひとりひとりと向き合って全力で助けていて
それでも願いは届かなくて
その度にこうやってなんでって
自分のことを罵倒して…
一体何人の子供たちがAの手で
救われてきたのだろうって
私は医者じゃないから
私はなんもできてないって言うけど
看護師さんに支えられてる人は
たくさんいて
たくさん救われてるよって
仕方がない
なんてそんな使い古された言葉で
終わらせることは到底できない。
少しでもAの心が晴れるような
言葉をかけてあげたいけど
何を言ってもうまく伝わらない気がして
ただそばにいることしかできなかった。
どんどん酒が進む
「Aそろそろ帰ろ?」
『じゅいくん』
「ん?」
『すき?』
「すきだよ」
『Aもすき』
「ん」
『じゅいくんすき』
「かえろっか」
『A好きって言って』
そう言って俺に向けてくる両手を掴んで
自分の方へ引き寄せる。
「続きはお家でね」
って耳元で囁けばコクッて頷いて席を立って
お財布を取り出す彼女
たくや「A気をつけろよ。樹よろしくな」
「あー」
『お金』
酔ってるのにそれは忘れないんだって
ちょっとだけ感心しちゃう。
たくや「あーいらんいらん」
『でも』
「ほら帰るよ」
『ありがとう』
こう見ると酔ってるようには見えないのに。
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作者名:唯音 | 作成日時:2023年2月24日 22時