夢物語(ディオ) ページ7
所々瘡蓋のあるかじかんだ手に息を吹きかけながら、ディオ・ブランドーは服を洗っていた。十九世紀の英国は世界中に権威を持つものの、自国内の貧富の差が激しい。生まれた時から格差は既に決定していて、それは並大抵のことでは覆せないものだった。ディオはそんな格差の底辺で生きていた。
明日食べるパンすらも満足に調達できるかわからない。飲んでいる水がはたして本当に安全なものかもわからない。いつ得体の知れない流行り病にかかり死ぬかもわからない……そんなわからないことだらけの中で生きるための稼ぎはいつも酒場で行なっていた。互いに金を賭けてチェスで勝負し、時にはイカサマすることもある。イカサマがバレたことは一度もないが、バレた者の末路をディオは知っている。
ただ、最近は稼ぎで酒場を使うことはなくなった。ディオが、あまりにも稼ぎすぎたためだ。
「……」
ただただ無心にディオは服を洗っていく。服についた汚れが、大量の泡と共に川に流されていった。ディオは洗濯し終えると立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。行く先は決まっていた。
右に数メートル、前に数十歩、また右に数歩と、狭い路地を進んで行く。進んで行くにつれ人の姿は少なくなる。
やがて貧民街の中でも一際立派な邸の前に辿り着くと、ディオは門を開いた。キイ、と少しだけいやな音が周囲に響く。敷地に入ると、邸の玄関から一人の少女が飛び出した。
「ディオ! 洗濯は終わったんだ?」
「終わったよ。あまり汚れがなかったから楽だった。そういうおまえは、ちゃんと塵芥一つ残さず掃除できたのか?」
「勿論だよ、わたしが一番得意なのは掃除だからね! いつもは4ペニーくらいでやってるけど」
「ペニーだってッ? なんだってそんな安金でやってんだ、おまえの腕なら1シリング、いや3シリングは取っていいと思うがーー」
「わたしは大人じゃない、子供だから。まともな報酬はこれっぽっちも期待してないよ。それに場所悪いからね〜」
少女の名前はAといい、ここ最近のディオの稼ぎ仲間だった。初めはどうでもいいと思っていたが、共に過ごしていくうちに段々と惹かれていっているとディオは感じていた。Aの仕草ひとつひとつに目を奪われる。
いつか、この貧民街を抜け出し、誰にも負けない男になれたら。そしたらAと一緒に__そこまで考えてディオは首を振った。……できすぎた、夢物語だ。
今はただ、こいつの笑顔が見れるならそれでいい。
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とある決闘者(プロフ) - リルスさん» 感想ありがとうございます。キュンキュンしてくださっただなんて……その言葉だけでとても頑張れます。改めてありがとうございます! (2017年12月12日 21時) (レス) id: c74a5c30fb (このIDを非表示/違反報告)
リルス(プロフ) - この作品を見て、久しぶりにジョナサンとディオ様にキュンキュンきた…!更新がんばって下さい! (2017年12月12日 21時) (携帯から) (レス) id: 5254e9f568 (このIDを非表示/違反報告)
とある決闘者(プロフ) - おバカな傀夢さん» 傀夢さんありがとうございます! いつもあなた様のコメントに励まされています。是非是非お楽しみください! (2017年12月11日 22時) (レス) id: c74a5c30fb (このIDを非表示/違反報告)
おバカな傀夢(プロフ) - とある決闘者様の作品はどれも好きなので、この短編集も楽しみに更新を待ちます!更新頑張ってください!応援してます!他の作品も楽しみです!! (2017年12月11日 17時) (レス) id: 5ff30031ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:とある決闘者 | 作成日時:2017年12月10日 22時