支遁動物記 2 ページ20
「ほら見てインカラマッ、やっぱりアシリパだッ！」
その時、少年の声が聞こえた。見ると、アイヌの服を着た男の子と女性が走ってくるのが見えた。どうやらアシリパさんの知り合いのようだ。「知り合い？」と私が聞くと、「チロンヌプ…とチカパシだ」とアシリパさんが答えた。
やってきた二人の話を聞くと、谷垣さんと一緒にきたが、近隣のアイヌの村の人々に、この辺りの鹿などの動物を惨殺していると濡れ衣を着せられているらしい。しかも、真犯人に銃は奪われてしまったそうだ。
さらにインカラマッさんは、その真犯人が、姉畑という入れ墨の囚人なのではないか、という。私達は話し合い、谷垣さんを助けることになった。
その為にもまずは、姉畑と谷垣さんを探さなければならない。
杉元さん達と一緒に行動しようか、と考えていると、視界の隅で尾形さんがすたすたと歩いていくのが見えた。慌てて私は彼を追いかける。
「待ってください、尾形さん！」
私が声をかけるが、なかなか立ち止まってくれない。それどころか歩く速度が早くなっていく。
「尾形さん！」
「うるせぇ。ついてくるな」
ようやく彼は足を止めてくれたが、こちらを振り向きもせず言った。
「一人じゃ何かあったときに危険です！それに、二人一組の方が効率が良いでしょう！？」
「お前がいてもいなくても変わらない。人ひとり殺せないようなお前が、役に立つとは思えん」
痛いところを突かれて何も言い返せなかった。私は唇を噛む。
「…それでも、貴方を守る盾や銃避けぐらいにはなれます」
尾形さんは、ほんの一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの無表情に戻った。そして舌打ちをする。
「……勝手にしろ」
とりあえず、同行する許可は貰えたようだ。
尾形さんの後を追い、しばらく歩いていると、どこからか銃声が聞こえた。
「今の音は……」
「近い。行くぞ」
私たちは音の鳴った方へと駆け出した。しばらく行くと、川沿いにつく。そこには、谷垣さんが数人の男に殴られていた。
尾形さんがそれを見て、威嚇するように空へと発砲する。すると、ぴたりと暴行していた男たちは止まり、こちらへと振り向いた。
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作者名：塩わさび | 作成日時：2022年8月11日 22時
