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日付が変わってしまって、一時間と、少し。
何ら変わりない、呪いに囲まれた一日。
けれど1年の内の、たった24時間の特別な日。
それも呆気なく終わってしまうと、
途端に電話の一本さえ価値が霞んでしまったように思えた。
電話では、少し寂しい。
メールでは、素っ気ない。
でも逢うには、24時間では足りない。
理由を付けては後回しにして、
結局お祝いの一言さえ渡せなかったなんて、呆れた話だ。
『…はあ。』
この呪術界で、彼ほど生まれた日が有名な人は居ないだろう。
きっと生徒や同僚から沢山祝われて、
甘いものから高級なものまで、素敵な贈り物が届いているに違いない。
一人分が抜けたくらい、粗末なことだ。
次に会えた時に謝罪と一緒に伝えればいい。
『……。』
手に取っていた携帯電話を机に置き、立ち上がる。
ふと窓の外を見ると、綺麗に夜空に映えた星が見えた。
鍵を開け、一枚羽織りながら外に出る。
吐く息は少し白んで、鼻の先が冷たい。
私も彼のように術式を使えたなら、このまま飛んでいけるのに。
十二月七日の次の日。
彼が生まれた日でも、何でもない日付。
価値もなくなってしまったこの夜に
どうしようもなく触れたくなってしまった。
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『…………。』
「寒いでしょ。…手、冷たくなってる。」
部屋に戻ろうと引き手に伸ばした手を、後ろから大きな手が包む。
『……………。』
「なんか言ってよ。ほら、こっち向いて。」
そのまま後ろへ引っ張られ
されるがままに腕の中に収まると、
自分の匂いが濃くなったのが分かった。
体を離して顔を近づける悟。
少し意地悪な顔で微笑んでいる彼は、喜んでいるのだろうか。
『おめでとうなんて、いっぱい言って貰ったでしょ。』
「まあね。でも一番言って欲しい人からはまだ言われてない。」
『……わざわざ来てくれたの?』
「うん。Aさんには、直接言って欲しいから。」
声だけじゃ、余計会いたくなるでしょ、と
言葉を急かすように頬に手を当てる悟。
この手に触れたかった。
こんなに早く叶うとは思わなかった。
冷たくなっていた頬に熱が伝って心地良い。
『悟、誕生日おめでとう。愛してる。』
「僕もだよ、Aさん。ありがとう。」
『来年もこうやって会いに来てくれる?』
「もちろん。でも次は中で待っててよ。」
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sou(プロフ) - 縞さんの呪術の作品全て拝見しました!!チューベローズの作品とても好きだったのでこちらもにまにましながら読みました!完結お疲れ様です♡♡ (2022年2月16日 9時) (レス) @page27 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
もぐ - 主様の作品の大ファンです。原作に忠実な登場人物たちや丁寧で綺麗な文章が本当に大好きです。もう書くことを辞めてしまったと存じますが自己満足でコメントさせていただきました。これからもずっと大事に読ませていただきます。素敵な作品に出会わせてくれてありがとう (2022年2月3日 4時) (レス) id: 21668848fc (このIDを非表示/違反報告)
セキララ - 私も恵とパパ黒好きなんです!(強さに惹かれた。もちろん顔も)周りの子はほとんど狗巻派なので少し悲しい。やっぱり1番は五条悟ですねw (2020年12月14日 20時) (レス) id: b7451699de (このIDを非表示/違反報告)
縞(プロフ) - セキララさん» 最初に好きになったのは五条先生ですが今は夏油や伏黒パパも同じくらい好きです。 (2020年12月14日 15時) (レス) id: c197e34fed (このIDを非表示/違反報告)
セキララ - 最近読み始めて止まらなくなり、すぐ読んでしまいました…続きを楽しみにしています!五条悟好きですか? (2020年12月14日 6時) (レス) id: b7451699de (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:縞 | 作成日時:2020年10月19日 3時