あなたへ送る12ヶ月便りー4ー

《春の夢》sideS 【5月17日】 ページ21

久しぶりに夢を見た。

あれは……

いつの頃だったのか…

まだ、この想いを貴方へ告げる前、

人知れず苦しみ

足掻き、藻搔いていたあの頃の

夢……







他のメンバーならどんなに近くに居ても

なんなら

肩を抱き、身体を密着させても

何とも思わない。

普段から仕事として至近距離で撮影をしているから。

男子校のノリのまま、ワイワイ出来るのに。



この人が隣に居ると

いや、この人の存在を感じたその瞬間

どうして息が苦しくなるんだろう…

苦手じゃない、むしろ一つ年上で、ダンスも歌も演技も全てにおいて

人よりズバ抜けているから

緊張しているんだ。

最初はそんな風に自分を誤魔化して

なんて事ない顔をして彼と一緒にいたけれども

でも、直ぐにそんな誤魔化しは効かなくなった。






「智くん、今度は俺とペアだって。行こ？」

「ん。」

グラビアの撮影でスタッフに言われるままスタジオに入り

ポーズを何パターンか。

『じゃ、今度はもっとくっ付いて』

そう言われて隣にいた彼と自然と肩を組んだ。


その瞬間


鼻先を掠めた彼の香りに

まるで、見知らぬ異性と急接近したような

強烈な緊張感に見舞われて

カァッと身体が燃える様な、

それは

羞恥心とも、興奮とも取れる様な感覚。

急に固まった俺にすぐ隣にいたその人が最初に気が付き

「…どした？」

周りのスタッフに聞こえないように耳元で囁いた

「っ！！」

背筋を駆け抜ける電流に

もう、ソレが快感なのだと認めざるをえない状況に

俺の心の中は絶望と恐怖に彩られ

「なんでもない…」

苦し紛れにそんなセリフを吐く事しか思い付かなかった。





その日から




俺は大事なメンバーを『そういう目』で見ないように

なるべく視界に入れないように

彼の前に出るようになった。

けれど

「んふふ…翔くんの後ろにいると安心だ」

背中全部で彼の存在を感じ取りながら

ほんの少しの幸せと

胸の奥に在り続ける

『コレハ フツウジャナイ カンジョウダ』

という罪悪感に似た思いに、眠れぬ夜を過ごした。

何度

拭おうとしても

何度

諦めようとしても

何度も

繰り返し、繰り返し

溢れてくるのは

ただ、

『彼が……好きだ』

それだけ。

春の夜の生温い風が俺の心をかき混ぜる

息をするのも

上手くできない程に

行き止まりの

何処へもたどり着けない想いは大きくなるばかりで

そのあまりの苦しさに胸に自ら爪を立てて

藻搔きながら浅い眠りに身を落とした

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