先生と子供達1 ページ5
｢本当に探せるの？｣
｢まずこれを見るアル｣
神楽ちゃんが示したのは消印だった。
｢先生の家がここの近くにある可能性は高いネ｣
確かにその通りだ。
｢でも、先生が素直に家の近くのポストに入れるかなぁ、あの人、存外ひねくれてる所あるから｣
｢今まで先生が買ってきてくれたものを思い出すアル｣
神楽ちゃんは先生が持ってきてくれたお菓子やパンの店の名前と場所をすらすらと言い並べた。
｢す、凄いね……？｣
｢これらは全てとある路線の色んな駅の近くアル｣
手紙の消印の場所と、かぶき町は1本の電車で繋がっている。そして神楽ちゃんが言った店は全て、その路線の色んな駅の近くにあるのだ。
｢間違いないネ！｣
｢凄いよ神楽ちゃん、名探偵だ！｣
｢体は大人、頭脳は子供アル！｣
｢神楽ちゃんそれ逆！それじゃただのダメな大人！｣
僕と神楽ちゃんは大きな声で笑った。
2人で探しに行くのはさすがに銀さんに怪しまれるので、とりあえず僕が探しに行くことになった。
なけなしのお金をはたいて、まずは消印の場所の近くに行ってみた。
そこは田畑の広がる田舎で、妙に先生に似合っている気がした。
畑で農作業をしている人に、先生の特徴を言って尋ねてみると、意外や意外、簡単に分かってしまった。
｢しかしまぁ、霧島さんのとこにわざわざ訪ねてくる子がいるなんてねぇ｣
｢霧島さんっていうんですか、その人｣
｢その家に前住んでいた人がその苗字でね、あたしゃそう呼んでるのさ｣
教えて貰った道を歩き、今度は別の人に聞いてみた。
｢ああ、柊ちゃんのことかい？それなら、この道をまっすぐだよ｣
｢ひ、柊ちゃん……？｣
｢あの家の近くに、立派な柊が生えているんだよ、だから柊ちゃん｣
先生が、好きなように呼んでくれと言った理由はこれだったのかもしれない。その後も、色んな人に先生のことを聞いてみた。
みんな先生のことを知っていて、悪い顔はせず、快く教えてくれたけれど、同じ名前を使って呼んでいる人はいなかった。
色んな名前をつけられる、まるで近所で可愛がられている猫みたいだと思った。
｢お姉さんなら、さっき出掛けちゃったよ、今日は戻らないって言ってた｣
そう教えてくれたのは、まだ寺子屋に通っているような年の男の子。
｢明日のお昼には戻るって言ってたよ、お兄ちゃん、明日にしたら？｣
先生は生憎不在だったので、明日来ることにした。
安心した。先生の居場所は、ちゃんとあった。
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作者名：風寧 | 作成日時：2019年10月13日 2時
