先生と志村家2 ページ32
｢新八くん、私は｣
｢僕の家に行きましょう、髪も整えなくちゃいけないしお風呂にも入らなくちゃ、あとは姉上の着物を借りて＿＿＿｣
｢私には、果たさなければならない義務があるのです。それを果たすまで君達と居るわけには……｣
｢じゃあ僕の義務も教えてあげます。先生を助けることです！｣
幸い姉上は家に居た。先生を見ると一瞬驚いたが、僕の焦った様子を見てすぐにお風呂を沸かし着物を用意してくれた。
料理をしようともしたのでそれは何とか引き止めた。
｢お妙さん、あなたにも大変な迷惑を……｣
｢迷惑なんかじゃありません、Aさん。あなたは新ちゃんの先生じゃありませんか。
私達をたくさん助けてくださったんでしょう。だったら今度は私達に助けさせてください｣
｢先生、先生は僕達と違うから、僕達より丈夫だからってことを考えすぎです。
先生は確かに強いけど、それは独りで何でも抱え込む理由にはなりませんよ｣
｢新八くん……では、お言葉に甘えさせていただきます｣
｢今日からここが先生の居場所です｣
それから先生は僕の家に住むようになった。といっても外出ばかりで、帰ってこない夜も多かった。
先生が何をしているのかはだいたい想像がつきそうであり、また全く想像出来ないようでもあった。
｢新ちゃん、Aさんは虚のこと、まだ調べているのかしら｣
｢だったら、僕らは戦に勝ってないことになりますよ｣
その時は天鳥船が墜ちてきて、僕らは諸共吹き飛ばされ、先生もその時に行方不明となった。
もしかしたら混乱に乗じてアルタナに還ったのかもしれないとさえ思った。
｢A先生は今日も帰らないですか。変装しているとはいえあの顔でうろうろするのは危険なんじゃ……｣
｢近藤さん、先生がそこらの浪人に負けるわけないじゃないですか｣
｢違うよ新八君、A先生は優しい人だ。めったに反撃なんてしないだろ｣
それはそうだ。でも帰ってくる先生はいつも無傷で、変わらない笑顔で『ただいま戻りました』と言ってきた。
傷の再生をした結果の無傷なのか、何事もなかったのか、僕らに確かめる術はなかったし、聞くことも出来なかった。
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作者名：風寧 | 作成日時：2019年10月13日 2時
