溺愛される鬼少女③ (ページ29)

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別れは突然に② ページ29

「来ないで！」

そう言うと文は一瞬私の顔を見て驚いた。
そして、優しく微笑んだ。

「ガウアアッ！」

正の攻撃が私を後ろに吹き飛ばした。

「文！逃げて！」

だけど逃げない文。
ああ、死んでしまう、殺される！

体制を無理やり変えたせいで体が痛いけど
そんな事はどうでもよくて。

お願い、間に合って！

水の呼吸壱ノ型水面斬り

ボトッ

嫌な音が聞こえた。
首が落ちる音。

「…ま、正…」

そう言うと口を開けたままその場に座り込んだ文。

腕を切るだけでよかったのに。
首を落とさなくてもよかったのに。

「義勇、さん…」

声をかけようとしたけど上手く声が出ない。

「…正、まさ…」

ボロボロと崩れて行く正の体に近づいて
そっと触る文。

頭が追いつかない。

「…っまさぁ！」

泣き出した文は義勇さんの握っていた刀にしがみついた。

「やめろ、離すんだ」

「いや、嫌！私も殺してぇ！」

文の悲痛な声。

義勇さんの刀を力一杯握る文の手から血が出る。
人間相手に本気を出さない義勇さんから刀を奪った文はそのまま自分の首を切った。

「やめろ！！」

「…ふ、文？」

何も理解出来なくて頭が追いつかなくて
ただただ目の前の事を見てた。

「…ッ」

義勇さんが慌てて文の血を止めようとするのも
だけど傷が深すぎるのも

全部、見ていた。

「…正は誰も食べてないのに」

ポロっとそんな言葉が出始めると

「文には正だけなのに」

止まらなくて。

「…A？」

「義勇さん…ふたりは死んだの？」

涙は出ないのに息苦しい。

「…っA、落ち着け」

「返して、返してください」

禰豆子ちゃんみたいに出来たかもしれないのに。
私みたいになれたかもしれないのに。

正は誰も食べてないのに。

「ふたりを返して…っ」

ずっとずっと生きていてくれたら良かった。
ふたりが幸せならそれで良かった。

私のいない世界で鬼のいない場所で

ふたりが笑っていてくれるとずっとずっと信じて疑わなかった。

「…嘘だって言ってよ」

生きててよ。