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本来彼女は、この報告をするつもりはなかった。
「御機嫌よう、与謝野さん。」
「おや、Aじゃないか。そうか、今日は国木田……社長に用があって来たんだったね。」
国木田という呼び方がどうにも離れてくれない与謝野は「また言い間違えた」と頬をかいた。
「妾に用かい?」
「はい。」
彼女は診察室の回転椅子に座り、最近の体調不良を話した。それを聞きながら、与謝野は顎に手を置く。
「もしかして……」
「………やっぱりそう思われますか。」
Aは分かっていたのだ。この体調不良の原因について。その確信を求めるため、与謝野の元を訪れた。一応検査をしたい、と言うのでエコーを撮ることになった。確かにそこには、小さな命があった。
「おめでただねぇ。産むのかい?」
「産みませんよ。」
彼女はさも当たり前かのようにそう答えた。
「……旦那とは相談したかい?」
「いいえ、何も。私は親になれる自信もありませんし、組織の首領ですからね。産まない方がいいでしょう?」
彼女はにこりと笑った。彼女は何処か人間として欠落している。それは昔から、所々に見え隠れしていた。与謝野は一つ息を吐く。
「………あんたは母親を知らないからそうかもしれないね。でも、母親らしい、なんて誰にも分からないものだよ。最初は誰だって不安だし、親になれる自信なんてない。当たり前だよ。あんたが組織の首領であるのは、もう揺るぎない事実。あんたが罪を重ね続けて来たのもまた事実。
でも、子供にはそんなもの関係ないよ。あんたが母親で、旦那が父親だ。あんたの旦那が、その子供を堕せと言ったのかい?あんたの父親が、長とはそういうものだと教えたのかい?」
Aはもう一度エコー写真へと目を向ける。産みたいかと聞かれれば、まだ正直は分からない。唯、その子供の親は自分なのだと、自分しか居ないのだと言うことはよく分かる。当たり前のことであって、中々気づけないこと。
「産むも産まないも自由だ。ただ、その子には既に命がある。それを忘れるんじゃないよ。」
与謝野の言葉に、彼女は暫く考えたあと、口を開いた。
「………この子を産んだら、この子の親になったら、もう少し人間らしくなれるでしょうか。」
その言葉に、与謝野は笑った。
「あんたはもう、十分人間らしいと思うけどね。今のあんた、すっごく母親らしい顔してるもの。」
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Napia - 完結おめでとうございます!! お疲れ様です!! 毎週のように「更新してるかな?」とウキウキしながらみてました!! 番外編も読みますぅ!! (2022年4月26日 16時) (レス) @page37 id: bc58708f8e (このIDを非表示/違反報告)
あんころ(プロフ) - お疲れ様でした!完結おめでとうございます!ダントツで面白かったです!! (2022年4月23日 19時) (レス) @page36 id: 9e178210e2 (このIDを非表示/違反報告)
クリスタルパワー(プロフ) - 完結おめでとうございます!!いつも更新を楽しみにしてました!番外編があったら楽しみにしてます! (2022年4月23日 19時) (レス) id: 47ef91694a (このIDを非表示/違反報告)
向月葵(プロフ) - 完結おめでとうございます〜!最初の頃からずっと応援していたので、見届けられてほんとに嬉しいですし、めちゃくちゃ面白かったです!番外編も楽しみにしてますね。 (2022年4月23日 19時) (レス) @page36 id: b81c3ee352 (このIDを非表示/違反報告)
Hazuki(プロフ) - 凄く面白いです!15ページの「鼻歌」が「花歌」になっています…間違っていればすいません。これからも更新楽しみにしています!! (2022年4月21日 20時) (レス) @page15 id: 140c609c2d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:花蛸花 | 作成日時:2022年4月16日 11時