前髪と息子-4【呪術廻戦】

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解剖室を出た後、一度大きく深呼吸をしてから寮へと足を進める。





｢…………幸慶、いるか？｣

『………A、悪いけど今は誰にも会う気はねぇ。』

｢………別に、会わなくていい。様子を見に来ただけだからね。｣

『……………………なぁ。』

｢……なんだ。｣

『……………俺たち………なんのために戦ってんの？』





グッと彼の拳が握られた。以前の彼なら、非術師を守るためだと即答していただろう。しかし、今はそれすらも出来なかった。





『……………A？』

｢……………さぁ………分からないけど………非術師を守るため…かな。｣

『…………守った相手に殺されちゃたまったもんじゃねぇよ。』

｢…………そうだな。｣

『…………妹一人守れないのに、術師なんてやってけんのかな、俺。』

｢………お前は強いから、大丈夫だ。…………守れなかったのは皆同じ。悪いのはあの女性だ。誰も悪くない。｣

『…………うん。』

｢…………そろそろ行く。解剖、硝子ちゃんに頼んで明日にしてもらったから、早めに会いに行きなよ。｣

『…………ありがとう。』





小さく呟くようなその声がドアの奥から聞こえてきた後、すすり泣く声が聞こえたが、特に声をかけることは無かった。なんだか気分が悪くて、Aは日下部に早退しますと連絡を入れて部屋に戻った。

ﾊﾞﾀﾝｯと扉が閉まるのと同時に、壁を背にズルズルと座り込む。なんのために戦うのか。誰を守っているのか。非術師を？非術師を守るために命を張っているのに、なぜ自分たちが恨まれるのか。

怒り、憎しみ、殺意。様々な感情が腹の奥底で渦巻く。それらの感情がぐるぐると体内を掻き回すような感覚に吐き気がして、靴を脱ぐのも忘れてトイレに駆け込んだ。





｢………おぇっ………｣





気持ち悪い。嫌い。嫌いだ。殺してやりたい。そんな感情全てを吐き出すかのように、口からはげぇげぇと吐物が吐き出されていく。






｢…………くそっ…………｣





どんなに吐き出しても感情は消えなくて、血が出るほど手をにぎりしめた。

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