・10 ページ10
電気ケトルでお湯を沸かし、紅茶を入れて林檎のタルトを食べる。それを食べ終わった頃に、また個室の扉が叩敲された。
｢よぉ、大人しくして〜………ねぇみてぇだな。｣
｢してるよ〜｣
｢大人しくしてる奴は紅茶入れて呑気に菓子食わねぇんだよ。｣
｢銀ちゃんが折角作ってくれたからね。芥川くんがさっき持ってきてくれたの。｣
｢ったく……茶なら言えよ。｣
｢これくらい出来るよ。お父様と中也さんが過保護すぎるだけ。｣
中原はタルトの乗っていた皿とカップを片し、寝台の傍の椅子に腰かけた。
｢中也さんも食べない？林檎のタルト。まだ残ってるから。｣
｢いや、いい。｣
｢それで、どうしたの？｣
｢唯様子見に来ただけ……と言いたいところだが、今日は見舞い品がある。｣
そう言って、中原は上着の
｢なにこれ。手紙……いや、写真かな。なんの写真？もしや任務の写真かな。丁度暇してたんだよね。｣
｢違ぇよ。開けて見りゃわかる。｣
早く開けろ、と目線で訴えてくる中原。彼女は封を切り、中から写真を取り出す。出てきたのは、三葉の写真だった。
｢これ……｣
｢ここ何日か、三島も色んなところ飛び回ってやがったし、ルイスは五回も空き巣をやった。利一はそいつらの任務の後任やら尻拭いで大忙し。で、そこから集められた情報から、志賀が探し出したもんだ。｣
その内の一葉は、金髪に翡翠色の瞳をした美しい女性が写っていた。二葉は、その女性と、その女性にそっくりな幼子が、桜の木の前に並んで立っている姿が写っていた。そして、三葉。椅子に座る女性と、その隣に立つ幼子、そして、その後ろには二人と全く系統の違う、黒髪に薄茶色の目をした男性が桜の木を背景に立っている姿だった。仲睦まじそうな、家族の写真だ。
｢最後の写真は俺が入手させた。お前にとって神無月は憎むべき相手だ。父親の所業とは到底思えねぇ。でも、其奴は其奴で、お前を大事にしてた時期だってあったんじゃねぇかな。｣
彼女は、じっとその写真を見詰めていた。優しげに目を細めて、緩りと口角を上げている。女性は彼女の母で、男性は父。幼子は彼女だ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 571人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：花蛸花
| 作成日時：2022年3月31日 8時
