不法侵入(イーサン・ベネットside) ページ7
日本へ移住してもう何年になろうか、祖国を捨てたつもりは毛頭ないのだが向こうでは私の評価があまり宜しくないのだとイングランドの友人から送られて来た葉書で察した。ミミズが這ったような崩しにしてもお粗末な綴りは相変わらずのようであるが、医者としての地位は随分と上がったらしく一昔前には送り渋っていた航空券を御丁寧に二枚、是非愛しき人と、等と焦れったい文言をつける程度には裕福らしい。イングランドに住むイングランド人にしては皮肉も通じず品もなくあまり思慮深くもなくかと言えば特有の妙な粗っぽさや湿った苔のようでもなく、快活で強く照りつける太陽のような人だったかと思い出してみる。無論皆一様に生活様式が似ているとは言っても性格までもが似るわけではないが、ある程度の国としての環境に流される部分はあるのではないかと私は思う。故に彼は、あまり見ない面白いタイプの人間だった。
彼のお茶らけたビール腹が目に浮かぶ。私は日本へ渡ったが、彼はアメリカに渡った方が上手くいくだろう。
下ろしたばかりの白いワイシャツが、伸ばす腕を引き留める。志し半ばで後ろへ追いやられ、規則的な呼吸と共に再び前へ、しかし思っているより進むことは出来ない。シャツの中にもう一枚Tシャツを着ているせいか少し体が火照ってきた。急に体温が上がったためか、頭の中に浮かんでいた物事が一つ一つ消し去られていく。浮かんでは霞を切って消え、泡沫になって弾け散る。
突然、コンクリート塀に鼻先が潰れた。冷たく鋭い粒の感触でふっと意識をそこに昇らせる。黒く煤けたコンクリート塀。手入れはあまりされていないというより私の居る場所にまで行き届いていないらしく、廃病院かあまり使われていない厄介扱いされている患者が入っているのか、兎に角すぐ後ろの門は綺麗にされているが外見だけでも病院自体が汚れているとなるとあまり人手がよくないらしい。住所も近く、門のせいか転勤先の病院かと思ったがそうでもなさそうだ。ちょっと面白そうである。
その出で立ちに興味を惹かれ、悪戯に壁や窓に手をかけどこか空いていないか探ってみるも戸締まりはきちんとしてあるらしく中々、中へ侵入する目処がたたない。薄い硝子や亀裂のある硝子窓は幾つかある。見ると廃病院のようだし周りに住宅街はない。ここは一つ、軽く割ってみようと亀裂の酷い窓目掛けて着ていたワイシャツを巻いた魔法瓶の底で大きく割れるよう大雑把に叩いた。
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すみれ。(プロフ) - 申し訳ございません、企画折りさせていただきます。 (2020年5月17日 10時) (レス) id: d26d96fde9 (このIDを非表示/違反報告)
ランラ - 更新させていただきます (2020年5月16日 20時) (レス) id: a91edda93c (このIDを非表示/違反報告)
氷浦メグ(プロフ) - 申し訳ございません。企画を降りさせて頂きます。 (2020年3月21日 23時) (レス) id: 3357bae399 (このIDを非表示/違反報告)
氷浦メグ(プロフ) - 作成中です。 (2020年3月4日 0時) (レス) id: 3357bae399 (このIDを非表示/違反報告)
氷浦メグ(プロフ) - 更新します。 (2020年3月3日 23時) (レス) id: 3357bae399 (このIDを非表示/違反報告)
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