10:いちごみたいに甘酸っぱい【瀬名泉】 ページ10
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「泉、」
俺の名前を呼ぶとき、いつも嬉しそうなのを俺は知ってる。
ほんとこいつは俺のことが大好きで仕方ないんだから。
仕方なく俺もその分愛を返してあげてるだけ。
仕方ないんだからね。ほんとに。
「あれ、いつもよりブッサイクな顔。よく学校来れたね?」
「泉はいつも綺麗だね。羨ましいなぁ」
「そりゃ努力してんだから当たり前でしょ」
俺の机に顎を乗せて、そっと静かに瞼を伏せる。
長い睫毛も、白い肌も、整った眉も、俺の方こそ羨ましいのに。
今日も今日とて、自分の魅力に気づかず、目の下に薄っすらとクマをつくっていた。
テスト前だからって夜更かしはだめって散々言ったのに。
するなら俺も付き合うから電話してって。忘れたの?
言いたいことはたくさんあるけど、まず一番に言わなきゃ。
「ブス、今日俺んちおいで」
「…え?」
「言っとくけど手出すつもりはないから。そこだけは覚えといて」
ぽんと頭に手を置いて言ってあげる。
ぱっちりと瞳を開いて、驚きも隠さずに俺を見つめる。
失礼な子だけど、仕方ないから許してあげる。
仕方ないからね。
Aはそれから、眉毛を下げて笑った。
ついでにほっぺもちょっと赤い。
(嬉しかったのかな)
なんて無意識に考えてしまうあたり、俺も相当だ。
「ありがと、泉」
「…、どーせ躓いてんの化学でしょ。基礎もロクに出来てなかったもんね」
「さすが泉さん、お見通しですね」
「当たり前」
軽くデコピンをお見舞いしてあげれば、今度は嬉しそうに笑った。
女の子は笑った方が可愛いって言うけど、Aは典型的にそれだ。
ずっと笑ってればいい。俺の隣でずっと。
「……たまには素直に言ってくれないの?」
「はぁ?」
また素直って。
あんたはいつもそうやって素直さを求めるけど、
素直に逐一言ってたら、その行動の意味をあんたは考えなくなるでしょ。
俺が言うより先に、俺の行動の意味を汲み取って理解してほしいの。
なんて、素直じゃない俺は、きみには絶対言ってあげない。
「自己管理もロクにできないバカに教える義理はありませ〜ん」
「えーケチ」
「うっさい。ほらさっさと席戻んな。一限始まるよ」
そう教えてあげれば、わっほんとだと急いで席に戻るA。
ねえ、知ってる?
あんたが俺の名前を呼ぶとき嬉しそうなのと同じで、
俺もあんたの名前口にするときすごくドキドキしてるの。
これも絶対教えてあげないけどね。
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くるみ - こんにちは!レオくんの話すごく切なかったです。幸せな話もまた読みたいです!これからも頑張ってください! (2019年6月27日 13時) (レス) id: 1520c09c44 (このIDを非表示/違反報告)
さゆな(プロフ) - レオのアンドロイド切ない… (2019年6月25日 20時) (レス) id: a613cbb65f (このIDを非表示/違反報告)
(名前) - 初コメ失礼します!レオくんのケーキとフォークの話がとても切なくて少し悲しい気持ちになりました。読み手をそういう気持ちにさせられるってすごいと思います!応援してるので頑張ってください! (2019年6月3日 22時) (レス) id: fe02a3a839 (このIDを非表示/違反報告)
サラダ油 - adoraさんの書くせないず可愛くて大好きです!更新いつもありがとうございます…!これからも頑張ってください!! (2019年5月21日 6時) (レス) id: bc4ed3887c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:adora | 作者ホームページ:
作成日時:2019年4月24日 0時