30:お役目御免ね恋心【斎宮宗】 ページ31
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私の恋心は、今手に持っているチョコみたいに脆かった。
なんとか気を強く持っているおかげで砕け散ることはないものの、
もうすでにそこにはヒビが入って、どうしようもないくらいにボロボロになっていた。
千秋先輩、かっこよくて優しくて、真面目で明るくて前向きで、どこか天然で。
憧れてるだけで、そんな太陽を近くで見れるだけで良かったのに。
高望みしてしまったから、火傷を負ってしまったのだ。
3-Aの教室の目の前まできて、くるりと踵を返す。
告白して玉砕する勇気もなければ、表面上を装う根性すらない。
__こんな私が先輩に手が届くはずがなかった。当たり前だった。
「あんなに張り切っていたのに、呆気なく終わるつもりかね」
「……え?」
「そのチョコだよ。……一生懸命作ったのだと、言っていただろう」
「ああ、斎宮先輩…」
千秋先輩について相談に乗ってもらっていたのは、この斎宮先輩。
話の最中は終始不機嫌そうな表情を浮かべていたけれど、今よりはマシだったと思う。
いつも彼の傍にいるマドモアゼルは見当たらず、ただ彼だけが私の前に立ちはだかっていた。
「いいんです。やっぱり諦めます」
「敵前逃亡するつもりかね」
「情けないですけどそうですね」
「…愚かな小娘だ」
「……すみません」
今日のために今までたくさん話を聞いてもらっていたのに、
彼に孝行すらできずバレンタインは終わってしまう。
シンプルにラッピングされた袋の赤が眩しく私の目を突き刺した。
昨日まではたしか大好きだったのに、今では目に入れたくないほど嫌いな色。
こんなことなら、今日にならなければよかったのに。
情けなくて恥ずかしくて、いてもたってもいられなくなったそのとき、
しっかりと握っていたその赤が抜き取られた。
「毒々しい色だ…味付けは?」
「は、え?」
「甘さはどれくらいなのかねと訪ねている」
「ああ、えっと…ビターだった気が…?」
「そうか」
淡々とそう言うと、包を開いて中のチョコをつまみ食べてしまった。
ヒラヒラと赤いリボンが床に落ちる。それを気にする余裕はない。
眉間にシワを寄せながら食べる先輩を見つめていると、ふと顔が近づいた。
ちゅっと軽く重なる唇と、ふわっと香ったチョコの香り。
「甘すぎる。作り直してきたまえ」
「……は」
ほとんどブラックチョコなのに、甘すぎるはずあるわけ。
そんな言葉を飲み込ますように先輩はもう一度私にキスをした。
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くるみ - こんにちは!レオくんの話すごく切なかったです。幸せな話もまた読みたいです!これからも頑張ってください! (2019年6月27日 13時) (レス) id: 1520c09c44 (このIDを非表示/違反報告)
さゆな(プロフ) - レオのアンドロイド切ない… (2019年6月25日 20時) (レス) id: a613cbb65f (このIDを非表示/違反報告)
(名前) - 初コメ失礼します!レオくんのケーキとフォークの話がとても切なくて少し悲しい気持ちになりました。読み手をそういう気持ちにさせられるってすごいと思います!応援してるので頑張ってください! (2019年6月3日 22時) (レス) id: fe02a3a839 (このIDを非表示/違反報告)
サラダ油 - adoraさんの書くせないず可愛くて大好きです!更新いつもありがとうございます…!これからも頑張ってください!! (2019年5月21日 6時) (レス) id: bc4ed3887c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:adora | 作者ホームページ:
作成日時:2019年4月24日 0時