【MHA】朱に染まる (ページ13)

今日:28 hit、昨日:1 hit、合計:16,854 hit

No.10『両天秤』夢主視点ページ13

……嘘をついてしまった。

　荼毘に対してはありのままの、フェアな自分でいたかった。

　でも、こんな関係になっている時点で、もうそれはできていないのかもしれない。

　他人の心に触れるのがひどく怖い。

　他人の心はあたしが心を傾けた分だけだけ、あたしに思いを返してくれるなんてことはない。

　だから、今のままの生温い関係があたしには心地よい。

　時々、物足りない気分になってしまうけど、それ以上踏み込んでしまうともう取り返しがつかない気がして、不安で堪らなくなるから。

　安定していて、けして傷つく心配のないあたしと荼毘の、多分、それだけでそれ以上もそれ以下もない関係。

　でも、もうそれはおしまいなのだろうか？

　気まずいまま、あたしと荼毘はホテルで別れた。

　あの時のようにあたしはただ、荼毘の後ろ姿を見つめることしかできなかった。

　あたしはこの名前のない関係に優しい荼毘を縛りつけてしまっていたのかもしれない。

　ふらふらとそのまま通りに出て、いつかのように店先のベンチに座りこんでいると、

　ピコンッ！

と、メールの着信を知らせる電子音が鳴った。
　
　バッグの中から仕事用のスマホを取り出す。

　今日は仕事は休みのはずだが呼び出しだろうか？

取り出したスマホの画面には今、一番見たくない人物の名前が表示されていた。

　轟焦凍

　どうしようか、無視しようか。でもメールの内容が仕事の話だったら見ない訳にはいけない。

　少しの間悩み、あたしはメールを開いた。