22話 ページ26
俺はただ、標的を静かに見据え続けた。
無くなった腕の先からぼたぼたと、絶え間なく血が流れていることも気にせず。
「琥珀っ!!」
ソウが息せき切って走り来る。あの女はその間にもソウを狙いトランペットを吹いた。
斬りつける風を避けて傍までやってきて、浴衣の帯につけていたリボンをはずして、左腕をきつく縛った。
「…血、出てる。しっかりしろ琥珀」
今だけは絶対に死ねないだろう、そう言って、俺の残された右手に、拳銃を握らせた。
足下には、俺の左腕と、持っていたライフルの残骸。そしてそれを彩るような赤。
「……あぁ…。ごめん、ソウ。」
しっかりしろ俺。こんな所で失敗してはなんの意味もないだろう。
腕はあの女を殺すための代償だ。殺して目を覚ませばなんてことはない。
でも、そう。夢の中でも出血多量で死ねるものだ。
こんなところで終わる訳にはいかない。
必ず、確実に。
「ぶっ殺す」
銃は帯にひっかけて、煙管を取り出す。
目一杯息を吸い込み、吐く。
辺りを霧で覆いつくす。
女は俺に対抗するかのようにトランペットを強く吹いた。
霧は裂かれ、あいつの視界は晴らされる。
だがそれでいい。
視界を覆うのは一瞬で構わない。
俺だけじゃない、ソウ達皆も俺の考えていることを理解したらしく、教会の中が白く霞んだその一瞬の間に俺達は散り散りになる。
レンは、女から少し離れたところにある椅子の後ろへ。
ソウは、釣り下がるシャンデリアの上へ。
アオと俺は女の目の前。
それぞれ瞬間移動した。これでもう暫くはこの力も使えない。
…別に構わない。この力は今回は然程役には立たないだろう。
俺は銃を、隣のアオは苦無を構える。
女は咄嗟にトランペットを吹いた。
床に敷かれた紅いカーペットは捲れ上がり、刃に裂かれ塵と化す。
同様に床の大理石も、壁も、砕けて舞い上がる。
それらの全てがあの女の創りだす見えない刃に乗り、俺達に牙を剥く。
「あぁああぁぁぁああぁっ!!!!」
叫びながら、俺は散っていく大理石を蹴りながら前進する。吹き付ける風の痛みもどうだっていい。
後ろでシャンデリアの落ちる轟音が鳴り響く。同時に、狼の雄叫びも。
視界の端でレンが走っている。
…と、一瞬、女が動きを止める。まるで石像のように。人形のように。
一羽の鷹が飛んできて、動けない女の右手からトランペットを奪い去る。
そしてそれを、恐らくソウだろう。銃で撃ち抜き、壊した。
女が目を閉じ、開く。
やけに世界が遅く見えた。
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鮭植物 - 色々あって、15話加筆しました。 (2018年2月5日 19時) (レス) id: c73bb7fdfd (このIDを非表示/違反報告)
涙戯@そこひれ(プロフ) - あけましておめでとうございます、日に日に増えていき楽しくなってきました、今年の黒獏もよろしくお願いいたします (2018年1月1日 18時) (レス) id: 4411fb7380 (このIDを非表示/違反報告)
鮭植物 - 皆様、明けましておめでとうございます。作者陣の都合もあり、更新は昨年に引き続き亀のようにゆっくりになるとは思いますが、今年も黒獏を宜しくお願い致します。 (2018年1月1日 14時) (レス) id: 069861b6b5 (このIDを非表示/違反報告)
沫斗@noir(プロフ) - コメント欄かなしい、、、、 (2017年10月26日 20時) (レス) id: 4411fb7380 (このIDを非表示/違反報告)
Alyssum - MFさん» ドンマイ (2017年8月7日 15時) (レス) id: bc44d2c5f5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そこひれ@そこの引き出しレタス x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php
作成日時:2017年5月28日 18時