◇ ページ6
「なぁんてね、冗談だよ」
ぱっと両手を上にあげて私から離れた太宰君はさっきのような冷たい表情が嘘のように、いつものにこにことした笑顔が張り付いていた。
まるで別人のような変わり方に、目の前に居てるのはこのポートマフィアの幹部なのだと再認識する。
「君に嫌われるようなことも、怖がられるようなこともしたくない」
どの口が、と頭に浮かんでもそれを言葉にする勇気は持てなかった。
いったい前世の私は何をしでかせばこんな男に目をつけられるようになるのだろうか。今すぐここから逃げ出したくなる程の恐怖が体から抜けていかない。
心臓が鐘を打つように激しく動いているのが自分でもわかる。
「あぁ、怯えさせてしまったかな。けれど私は君のことを本気で好いているのだよ。だからあまりからかわれるとさすがの私も腹が立つ」
本気で好きだと言うくせに、貴方は他の女の匂いを付けてここに来るのか。
ずっと、腹が立っているのはこっちだというのに、この男からは逃げられないと本能が叫んでいる。きっと、この男に目をつけられた時から逃げ場などなくなっていたのだ。
もう、どうしようもない。
「太宰君の気持ちを試すようなマネをしたことは謝罪します。でも、それは冗談じゃなくて、本気で貴方から逃げようとしたから……」
「逃げるなんて酷いなぁ、こんなにも熱烈に愛を伝えていると言うのに」
「信じられない」
太宰君程の人なら、私なんかを信じ込ませるなんて簡単にできる事のはずなのに彼はそれそしない。だから私は彼のことが一つも信じられない。
傷付きたくない。怖い。騙されると分かっていて愛を受け入れる程莫迦になりきれない。
「信じられないなら、信じさせてあげよう」
「どうやって…………」
「見ていておくれ。私がどれだけ君に対して本気なのか、必ず信じさせてみせる」
そうやって、今度は真剣な顔で私の事を見つめる。その表情でいったい何人の女の子が泣いてきたのだろうかと考えると、名前も知らない彼女たちに同情までしてしまう。
それほどまでに、彼の表情はとても綺麗で思わず見惚れてしまいそうだった。
「とりあえず、今まで会っていた女性とは全て関係を絶ったと報告しておこうかな」
「……それが一番信じられません」
じとりと睨みつけると太宰君は「それは困った」と一つも困ってなさそうに笑った。
80人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
柚子豆腐(プロフ) - みなづきさん» コメントありがとうございま!文章を褒めて頂けるのはほんとにめっちゃ嬉しいです!!より楽しんで頂けるよう頑張ります!! (2021年3月10日 4時) (レス) id: 63b1aa4dbe (このIDを非表示/違反報告)
みなづき(プロフ) - 死ぬほど好きです!!!文章が綺麗で、キャラクターとしても太宰がひたむきというか、原作のままなのがもう好きすぎて、、100億回くらい10点押したいです。続き楽しみに待ってます! (2021年3月9日 22時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:柚子豆腐 | 作成日時:2021年2月25日 4時