2月17日(火) ページ9
帰り道は私の心を映したような黒く分厚い雲が空を覆っている。
今日に限って仕事が多くて残業3時間。
朝のアナウンサーが言っていた通り、日没後は特にいつもよりぐっと気温が冷え込み、今にも雪が降ってくるのではないかと体が縮こまった。
こんな寒い日は鍋でも食べたいな、と思いながらスーパーに寄る。だがふと見に入ったスマホが表示する時刻に急に億劫になり、結局値引かれた残り物の惣菜をカゴに入れた。
スーパーを出ると雨が降り始めていた。
雪とは呼べないが雨よりも質量のあるみぞれは着実に地面に溜まり足を滑らせやすくしていた。
びちゃ、びちゃと自分が歩く度に音がする。幼い頃はそれだけではしゃげたものだが疲れた仕事帰りの大人にとってはそれすら鬱陶しい。
スーパーを出て一本道を逸れると住宅街が広がっている。
そこまで大きくないアパートと一軒家が立ち並んでいて、動物を飼っていたり、家庭菜園をしている家庭も少なくない。
帰り道、必ず通るある家には一際目立つ立派なみかんの木がある。
パシッ
『…何を、しようとしたんですか。
エースさん』
次第に強くなる雨と街頭の死角で彼の顔は見えない。
それでもわかったのは彼が私のよく見覚えのあるコートを着ていたからだ。その立派になったみかんに伸ばした手を押えられた彼は叱られることに脅えた幼子のようだった。
『…だから言ったんです。この世界はあなたの常識は通じないんですよって』
掴んだ腕から伝わってくる震えと冷たさ。
ぎゅるるるる、と腹を鳴らしながら水浸しの地面に膝を着く彼には数日前に見た笑顔の明るい面影はなく、ただ黙って下を向くばかりだ。
コートは張り付き、帽子はへたり、見るからに水分をぐっしょり含んだ彼に傘を傾けた。
『約束もしましたよね。盗みはダメだって。食い逃げも。
他にもこんなことしたんですか？』
力なく首を横に振る。
『そうですか。
帰りましょう、うちに』
冷たいみぞれはいつの間にか雪に変わっていた。
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葵(プロフ) - めりーさん» めりー様コメントありがとうございます。全部ありがたいお言葉すぎて感涙です…！今後とも楽しんで読んでいただけるように頑張りますのでよろしくお願いします！ (2023年3月13日 9時) (
レス) @page32 id: d6d31879de (このIDを非表示/違反報告)
めりー(プロフ) - 続編行くんですねっ！😆✨とても大好きで読ませてもらってます！文才がすごくて憧れます😌🙏💫応援してます🔥ꉂꉂ📣 (2023年3月11日 22時) (レス) @page46 id: 4d1819db53 (このIDを非表示/違反報告)
葵(プロフ) - ココナッツさん» ココ様！前作に引き続きコメントありがとうございます。笑っていただけて光栄です笑。これからの展開もぜひ楽しんでいただけると嬉しいです！今後ともよろしくお願いします。 (2023年2月26日 7時) (レス) id: d6d31879de (このIDを非表示/違反報告)
葵(プロフ) - 十六夜紅葉@斎藤一推しさん» 十六夜紅葉様コメントありがとうございます。応援とても励みになります。これからもよろしくお願い致します！ (2023年2月26日 7時) (レス) id: d6d31879de (このIDを非表示/違反報告)
ココナッツ(プロフ) - 葵様こんばんは。新作早速一気読みしてしまいました´`* 私5話の｢あ。結構馬鹿だ、この人。｣が好きすぎてつい笑ってしまいました(笑) 夢主さんとトリップしたエースさんのこれからが楽しみで仕方ありません…!! 今作も応援してます (2023年2月25日 23時) (レス) @page5 id: a1f85287cc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：葵 | 作成日時：2023年2月23日 12時
