番外編・或る冬島にて ページ50
これはまだ私とエースが付き合って間もない頃の話。
『…寒すぎる』
「…あァ、凍っちまいそうだ」
補給に寄った冬島は零度を下回る氷点下。
いつも上裸のエースも丸々とだるまのように着込んだ格好をしている。
そんな私たちは今洞窟の中にいる。
事の発端は数時間ほど前。
雪にはしゃいだエースが飛び出して行ったことが始まりだった。ほっとけばそのうち満足して帰ってくるかと思いきや30分経てど1時間経てど戻ってくる様子は無い。
仕方無くエースのビブルカードを辿って行くと人里を抜け、雪の多く降り積もった山に入った。
そこで理解した。あの男遭難しやがったと。
全く、ビブルカードがなかったらどうなってたことか。
『エース！！』
「あ、アイリン〜〜〜〜！」
もう帰れないかと思った、と泣きついてくるエース。
はいはい、となだめながら来た道を引き返そうとした時だった。
ヒュォォォォオ
急に天候が荒れ始め、1m先も見えないほどの吹雪に見舞われた。
足跡も掻き消え、この中を歩いていくのは危険と思い、丁度よく近くにあった洞窟に身を寄せあって今に至る。
「吹雪、止まねェな」
『子電伝虫も全然反応しない…この吹雪のせいかな』
炎のエースは寒さに弱いのか自分の身を抱きながらがたがたと震えている。その鼻先があまりに真っ赤で少し面白くて笑ってしまう。
「…何笑ってんだよ」
『いや、鼻真っ赤だなと思って」
ムッとしたエースは私のフードを払い、そっとマスクを外した。
この寒さだもんな、私も人のこと言えない鼻をしてるんだろうか。
しばらく私の顔を見つめていたエースはおもむろに顔を寄せ
ちゅ
『！？』
唇を押し付け、お互いの微かな温もりを伝え合うだけのキス。
あまりに想定外のそれに体温が少しだけ上がった気がした。
「お前は顔が真っ赤だな」
にしし、としてやったと笑うエースになんだかすごく恥ずかしくなって顔を覆った。
そんな私にはお構い無しにぎゅぅと私を抱きしめてくるエース。
「なァ、くっついてた方が温かいだろ？アイリン」
『〜〜〜うぅ…』
観念した私は吹雪が収まるまでエースに身を預けていた。
○
葵です。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
最後にどうしてもエースくんとのほのぼのしたお話が書きたくてご挨拶が短くなってしまいましたが前作と変わらずのご愛顧本当にありがとうございます。
また、続編でお会いしましょう。
葵
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作者名：葵 | 作成日時：2023年1月12日 8時
