8，黒色の瞳、短い髪 ページ8
1位の子から何分か遅れてゴール。
途中で上位の人と接戦になったが、カメラがこっちに向いた途端に動けなくなって、後ろの順位に落ちてしまった。
「俺はまた……こんなことで順位を落として……」
「自信持てって環！まだまだ行けるよ！」
「ミリオ……」
「まぁ予選落ちしたのは痛いけどね！」
「うぐっ」
一方ミリオは、その後巻き返しを図り予選を勝ち抜いていた。
何やら騒いでいるプレゼントマイクの実況をそこそこに観客席に行く。
「……あ。」
「……」
普通科の席を通ると、徒競走の優勝者がつまらなそうな表情で座っていた。
そのまま素通りしようかと思ったが、はからずも声が出てしまった。
「どうした？」
黒色の瞳がこちらを向いた。
「あ、え……と……」
幸い、と言うべきだろうか。
彼女の周りを避けるように両隣の席が空いていたから、とりあえず右側に座った。
「次の種目はいいのか？」
「ああ……うん。大丈夫。次出れないから。」
「なぜだ？君、ぶっちぎりの1位だったじゃないか。」
「ぶっちぎりってきょうび聞かないな…」
「……」
競技が行われているステージを見ながら返答を待っていると、短い髪を弄りながら答えた。
「実は、最後の最後で足が挫けて走れなくなったんだ。スタジアムに入ってくる建物内の最後のコースはカメラが入ってこれないんだけど、そこでね。」
「大丈夫なのか？今後一生走れないとか……」
「そういうのじゃないんだ。ただ、普通に。今日1日は走れないよなって感じの。」
「……そうか。」
こういう時、ミリオはどう答えるだろう。
アイツなら気の利いた言葉のひとつやふたつ言って、本田さん(娘)を励ましてくれたかもしれないのに。
「別に気にしてるわけじゃないから、そんな難しい顔しなくていいよ。」
さっきの悩みが顔に出ていたのか、本田さん(娘)はこっちを向いてそう言った。
視線を彼女の顔に移すと、綺麗な無表情が、少しだけ柔らかくなっていた。
「今……励ましの言葉を思いついたんだが、言っていいか？」
「どうぞ。」
「こうやってゆっくり話せることができたんだから、気に病まないで。」
言うと、黒い大きな目がさらに大きく見開かれた。
自分で言っててなんだが恥ずかしい。顔が赤くなるのが感覚でわかる。顔面が熱い。耳まで熱い。
額の生え際から、じんわりと汗が滲み出てきた。
「……ごめん。」
「……なに、謝ってんだよ。」
バーロー、と、彼女は小さく呟いた。
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作者名：雪羅 | 作成日時：2021年10月24日 22時
