1，怖いし危ない ページ1
高校生になってからちょうど一年が経った。
しっかり単位が取れてよかったな、なんてことを、ベッドの上で小さく呟いた。
「環、ご飯だよ」
「うん、すぐ行く」
個性のこともあってか、高校に上がってからはおかずの品目が増えた。
まだあまりいい成績は出せていないが、こういうところから応援してくれる親にはなるべく応えたい。
2年生最初の夜。
今まで意識さえしなかったことが、夕飯と共に自分の中に入ってきた。
「環。そろそろ免許取ったらどうだ？」
「何の…？車の免許なら、まだ年齢が足りないから無理だ。」
「違う違う。原付だよ。これなら16から取れるだろう？」
乗れなくてもしっかりした身分証になる。そう言った父親の目は、俺が雄英を目指すと告白した時のものと同じだった。
期待の目。俺はこの目が好きではない。
「原付くらいだったら買ってやれるし、何かと便利だもんな。」
「そうね…ちょっと心配だけど…大丈夫よね。」
「待ってくれ。俺、バイクに乗るつもりないよ。怖いし危ないし。」
口に入っていたものを飲み込んで、大きめの声で言った。
原付とは、排気量50cc以下の小さいバイクのことを指す。16歳から、そして上手く行けば1日で簡単に取れることから、夏休みなどを利用して免許を取る高校生も少なくない。
「まぁいいだろ。とりあえず来週の日曜日にバイクを見に行ってみよう。それで気が変わるならよし、変わらなくても免許は取っといたほうがいいからな。」
そう言って、待っていたように原付免許の本を取り出した。
「……取るだけなら。」
美味しいはずの夕飯が苦くなった。
───
──
日曜日。
この一週間、気が休まる時が無かった。
授業はしっかり受けられたが、ふと気を抜くと例のことを考えてしまう。
ミリオにもガチめに心配された。
しかしせっかく見に行くのだから、何も準備しないのは父親に悪い。
HONDAのスーパーカブ、ディオ。YAMAHAのビーノ、ギア、ジョグ。
調べたら意外と種類が豊富で、電動キックボードも原付免許で乗れると書いてあった。
出かける準備ができると同時に、家の前で車が止まった。
「よ！」
「よ、久しぶり。」
見れば、俗に言うちょいワル路線の格好をした男が、父親と仲良さげに話していた。
「環、覚えてるか？本田のおじちゃんだ。」
「おじちゃんはやめろって…」
「もうおじちゃんだろ。」
「そういやそうだった。」
なんだ。この人。
2，歳が同じだからって面識の無い人と会わせようとする大人撲滅委員会→
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作者名：雪羅 | 作成日時：2021年10月24日 22時
