反社会的ユメノクニ。| Ryosuke.Y (ページ20)

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その日のことは
今でも鮮明に記憶している。

左手のタトゥーをサポーターで隠し、髪を自
然な色に戻すという条件で採用が決まった初
めての "仕事"

片手に提げたビニール袋の中から誇らしげに
取り出した黒髪用のカラー剤が、彼の喜びが
どれだけであったかを物語っていた。

＊＊＊

「……別人みたい」

蝉「げ、マジ？茶色の方がよかった？」

初めての黒髪だった。

もともと色素が薄いせいか、
色白の肌と相対する黒髪のコントラストが強
面の印象をガラリと変える。

少年のようなあどけなさがありながらも、
端正な顔立ちの好青年に様変わりした彼。

身も心も変わろうとしていた。

＊＊＊

「ね、たまには外行かない？」

そんな彼を外食に誘い出した。
就職祝いを兼ねた初めての外食だった。
よそ行きの服を持たない彼との行先は、駅前
にオープンしたばかりのファミレス。
どこにでもあるチェーン店だったっけ。

そんな店でも、
彼にとっては全てが初めての経験で。

席に案内されて
注文をとられて
食事が運ばれて

至れり尽くせりの食事まわりに、背筋を伸ば
したままガラにもなく借りてきた猫みたいな
姿で料理を口にしてたっけ。

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