【盤上のラグナロク】BL△CK Out【派生作品】 (ページ7)

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「ハロウィン…」

　ロキにそのまま言われた言葉を繰り返す。確か、今日は10月31日だったか。
　蓄えた知識を掘り起こしてみる。ハロウィンと言えば、この時期に現れる幽霊や悪霊を、魔除にジャック・オー・ランタンに火をつけ、仮装して追い払うなんて行事だったか。…今更、そんな子供じみた事。
　そんな事を思っている内にも、ロキは1歩前に出てトールを振り返り、楽しそうに話す。
「お前は何に仮装する？ドラキュラ、狼男、フランケンシュタイン…どれもいいな」
「仮装ですか…。そう、ですね……私は近衛兵にでも」
「近衛兵？」
「はい、近衛兵です」
　ロキの無邪気な笑みが濁る。つまらなそうに口をへの字にすると、「近衛兵に仮装した奴を誰が怖がるんだよ」と溜め息を吐いた。

　ロキは暫く考える仕草をすると、何かを思い付いたように言った。
「トール、朝食が済んだら、俺の所に来い」
　そこで、トールはロキが考えている事を何となく察した。何かに巻き込むつもりなのは確かである。トールはそうなる前に断ろうと口を開く。
「…陛下、申し訳ありませんが、私は…」
「返事は“はい”か“YES”か“喜んで”、だ。トール」
　有無を言わさぬ瞳でロキが言う。トールは自分に言い聞かせた。自分とロキは、兵と皇帝なのだと。逆らうという選択肢は、ない。トールは愚図るような空白の後に溜め息を吐き、諦めたように目を伏せてから返事をした。
「はい、陛下」

＊

　トールは、おもむろな足取りでロキの部屋へ続く廊下を歩いていた。ドアは既に目の前だ。
　今日がハロウィンで、彼が自分を誘っている時点で、仕事の用事ではない事は確かだ。自分の仕事は、ロキと仲良しこよしする事ではない。贖罪として、彼に、国に命を捧げる事なのだ。
　暫くドアと睨めっこしたが、彼の命令に従う他無いので、トールは扉をノックした。すると、心做しか少し弾んで感じる、ロキの「トールだな？」という声が聞こえてきた。トールがドアを開ける前に、ロキがドアを開ける。

　ロキの姿を見て、トールは目を見開いた。
「…ロキ、様…その格好は、一体、」
　ロキは、荒々しい風貌の海賊衣装に身を包んでいた。胸元まで開けたシャツ、少し汚れたベスト、長いコート。ジャラジャラと着けたアクセサリーに、右目には眼帯。腰には剣まで差している。
　その自信に満ちた笑顔が、海賊らしさを引き立てていた。