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城に戻るまでの間も、「皇帝陛下万歳」という声は止まなかった。
覚悟を決めたのかと言われたら、違うと答えるかもしれない。
皇帝に
城に戻って、バルコニーに出る。
沢山の人々が、ロキに向かって手を振る。ロキも控えめに振り返した。
雄弁を振るえ。誰もロキに逆らえない程の。ロキに異論を唱える者が居なくなる程の。さあ、国の希望になれ。自信に満ちた笑顔を見せつけろ。笑え。笑え。笑え!
ロキは、口の端を持ち上げた。
「ご機嫌よう、国民の皆様方。アースガルデン帝国第8代皇帝、ロキ・ファールバウティ・ウトガルド・キングキャスリングです。この日を迎えられた事を、私は誇りに思います」
歓声が湧き上がる。もっと。もっと声を上げろ。まだ足りない。
「父の死から、国は悲しみに包まれていました。ファールバウティという偉大な皇帝を亡くした事は、我がアースガルデン帝国にとっては、果てしない絶望でした。それまで帝国を照らしていた太陽が、突然、死という影に追い付かれ、消えてしまった。国中が闇に包まれた。──ただ、闇がたった今、終焉を告げるのです。この私によって! 先代は、追い付かれる前にもう一つの太陽を残しました。夜明けは間近──いや、もう夜は明けた! 私はこれからの人生を、命を全て、国に捧ぐ事を、ここに誓います」
ロキは民衆に微笑んだ。「だから、もう泣かなくていい」
張り裂けんばかりの拍手と、「皇帝陛下万歳」の声。ロキは全身でその声を受け取って、小さく頭を下げた。
王冠を乗せた頭はもう、重たくなかった。
人とは、誰もが縛られているものである。
皇帝の側に縛られる者もいれば、皇帝という立場に縛られる者もいる。
トールが、後ろから声をかけた。「陛下、窓に座ると危険ですので、内側へ」
ロキは羽ばたいていった鳶を見送り、窓から通路へ体を向ける。
「そんな顔しなくたって、抜け出したりしないよ」
ロキは何にでも変身する事ができる。鳥、魚、虫、獣、魔物、植物、全く別の人間にだって。
ただ、ロキは皇帝以外になれはしない。それは、死してもなお、永遠に。
「変身者の呪縛」
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