◆持てるだけの愛を君に ページ6
*
「アッハハ、ナターリアまた泣いた〜！ ダサいな〜、なんでそんな泣き虫なワケ〜！？」
「うっ…だっ…て、セオく、が…いじめる、かっ…ら……！」
ナターリアが頭を抱えて踞る。彼女のお気に入りのワンピースには、セオに追いかけ回されて転んだ拍子についた泥で汚れていた。「せっかく買ってもらったのに」その悔しさと、汚れてしまった悲しさから、ナターリアはその目から大粒の涙を零した。
セオはそれを見ても尚けらけらと笑う。花に水をやるためのホースを取ると、蹲っているナターリアのワンピースに水をかけた。
「きゃっ…な、なに…!!」
「は？ 泥流してやってんじゃん文句あんの？ 泣き虫の癖に。悔しいならやり返せば？ ナターリアには無理だろうけど」
ハッ、と鼻で笑って、蹲ってまたすすり泣きを始めたナターリアを見下ろす。すると、後ろから怒気を含んだ声が聞こえた。
「セオ!! 何やってんだ！ ナターシャをいじめるなって何回言ったら分かるんだ！」
「…ちっ、カイ…」
「ナターシャ、大丈夫？」
「うう…お兄ちゃあ〜ん、うわぁあ、怖かったよ…！ セオくんが、追いかけてきて…っ、転んで、泥ついちゃって…！」
カイが止めに入ってきた所で、セオの熱は一気に冷める。あーあ、せっかくいいとこだったのに。邪魔すんなよ。
ポケットに手を入れたまま土を踏み付けると、濡れているにも関わらずナターリアを抱き締めるカイが、セオの方を見た。その目はつり上がり、怒っているのは明確だが、セオはその目を見て嬉しそうに笑う。
「ねぇ、カイ……」
「セオ、オレと話すより先にナターシャにごめんなさいしろ。いつも言ってるだろ、�犢イ��瓩禄�付けていい理由にならないって。自分がされて嫌なことを人にするな」
あー、カイにーちゃん、正しい事言ってる。でも、違う。セオの中で、否定と肯定が歪に混ざり合う。好きだからいじめてる、けど好きだからじゃなくて。どうしてか明確に言葉にできないその言葉に唇を噛み締め、歯切れ悪くナターリアに謝った。「ごめん」
ナターリアはカイの腕の中で、「うん」とだけ言って他は何も返さない。今度こそ嫌われたろうか。
何度いじめても、何度泣かせても、皆懲りずにセオの側にやってくる。──いっそ嫌えよ。そう心の中で思っても、嫌われたくないと言う喉がそれを食い止めていた。
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