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天ちゃんは私と目が合うと、「おかえり」とにっこり笑った。「ただいま」と返した後に、「おかえり」と付け足す。天ちゃんは「ただいま」と言って取り敢えず私の隣に座った。
自分の膝に肘を起き頬杖をついて、天ちゃんはまっすぐ私を見る。
「今日はどうかしたの？」
そんなに私は顔に出るタイプだろうか。
私はココアを一口飲んでから、昼休みの時の事を話した。この前天ちゃんは「受け入れてもらう為には受け入れないと」と言った。私なりに他人を受け入れようと頑張ってはいるが、どうにもこうにも上手くいかない。
天ちゃんは眉を下げて「そっかぁ」と言いながら、私の頭をポンポンと撫でる。このリズム無性に眠くなるからやめて欲しい。
「…天ちゃんは、人と話してる時息できなくなる事ないの？」
「…息？」
「うん」
人との距離が開く度、私の酸素は薄くなる。
きっと天ちゃんには無いだろうな。こんなに優しくて話しやすい人なんだから、まず人との距離が開くこともないんだろう。よく考えると、天ちゃんとは生きる世界が違うのかもしれない。天ちゃんの生きる世界には、それはそれは綺麗で美味しい酸素で満ちているんだろう。
「なんで天ちゃんは当たり前みたいにその鼻から息吸って、その肺に取り込んで、その口から息と言葉を吐き出せるの？ 誰に教わったら呼吸ができるの？」
天ちゃんの頼りない胸元にある肺を指さして言う。
天ちゃんの胸は筋肉も何も無くて、押したら穴があきそうなくらい薄い。なのに触れたらゆっくりと同じリズムで浮き沈みを繰り返す。脈もそう。いつも、ゆっくり、力強く脈を打ち続けている。熱い血液が、その体に駆け巡り続けている。
私は違う。ふとした時に呼吸は乱れ、心臓は止まり、血の気は引いていく。
「私は息の吸い方なんて教えてもらわなかった、酸素の取り込み方も、二酸化炭素の吐き出し方も。だから誰がの言ってる事も受け入れられないしそれを取り込んで自分の意見を発する事もできない、ていうかそもそも自分の意見が出てこない。…ねぇ、誰に息の仕方なんて教わったの？ 意識して呼吸しようとしたら、なんも、肺に入ってこないんだよ。なんで？」
気が付いたら息が止まっている事がある。授業中や、本を読んでいる時に。それに気が付いて呼吸を再開しようとすると、息を吸いすぎたり、吐きすぎたり、リズムが乱れて上手にできなくなってしまう。
なのになんで皆は、こんな空間で当然のように息できる？
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