No.140 ページ41
「そうだ。一郷さん、相談があるんだけど」
「あら、珍しい。いっちゃんから相談だなんて」
「うん、今だから相談するんだよ」
成る程、今だからこそか。実に彼らしいと思う。
なら、ちゃんと請け負わなきゃねと少し気合いを入れて、彼の言葉を聞き入れる。
「財産の一部を君に譲りたいと思ってるんだけど、どうかな」
「……誰の財産?」
「僕のだよ」
彼からの相談は何処までも現実離れしていて、危うく脳味噌でも零したのかと失礼な質問を返す所だった。
その為、理由も聞かずに私は咄嗟に「そう」と小さく呟いてしまう。呟いた後で回答を間違えたと感じ、すぐに訂正しようとしたが、約2秒程遅かった様だ。
「君の店、潰れちゃっただろ? だから、それを使って立て直してよって言う意味で」
「待って! それはそうなんだけど……」
「君ならまた良い店が作れるよ。恋音さんだったけ、一郷さんの妹の名前。彼女の夢でもあるんだろ? 大人しく触発されておくから、君は前を向いて歩いてくれよ」
「ねぇ、それって何か……」
遺言みたいよ。
そう言えば、彼は満足そうに微笑んだ。その笑顔に怖気付き、私は俯く事しか出来なかった。
肯定しているのだ。みたい、じゃない。本当にこれを遺言にするつもりなんだと瞬時に察する。
この人──翠斎槻はこの世界から逃げるつもりだ。強くはっきりとした輝きを放つ星達の中で、彼は自らその輝きを手放そうとしている。
(何だそれ……狡い、頗る狡い)
非常に腹立たしく思い、そんな最低最悪の選択をしなくても良いじゃないと叫びたかったが、此方を射抜く琥珀がそれを許さなかった。
なら教えて欲しい。理想郷を作っていた意味も、逃げようとしている理由も、死にたい訳も全て。
「貴方は何を望んでいたの?」
遠くの方でれーちゃんの凛とした涼やかな声が響いた。
“never give up”、絶対に諦めない。これが今後、この世界を導く者として掲げなければならない信条と責任だ。
だが、全てを放棄しようとしている目の前の男には何一つ届かなかった様だ──否、ずっと前からこうなる事が決まっていたかの様な口振りだ。
「そうだね」と悟す様に紡がれる言葉は、私の皆と一緒に生きて欲しいと言う願いを容易く打ち砕く。
「──翠斎槻と言う
(そっか、貴方は──)
ごめんねと、カーキのコートを赤黒く染めて満面の笑みを浮かべる彼は、朝焼けに立つ鬼でしか無かった。
視界の端、一人の少女が鬼の前に飛び出した。
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花梨(プロフ) - 皆さまお疲れ様でした〜 (2018年9月14日 22時) (
レス) id: e3aad0174a (このIDを非表示/違反報告)
透明少女(プロフ) - お疲れ様でした！あまり参加出来ずにいて申し訳ありませんでした…！本当にありがとうございました！！ (2018年9月14日 21時) (レス) id: 6dddb2cb16 (このIDを非表示/違反報告)
睦都(プロフ) - 初めからずっと見てました！主催者様、参加者様の皆様お疲れ様でした！剣士君たちとても好きです(*^^*)ほんとうにお疲れ様でした (2018年9月14日 19時) (レス) id: 3a040f6594 (このIDを非表示/違反報告)
羊素。(プロフ) - 遂に完結ですか…少し寂しい気もしますが、主催者様、及び参加者の皆様、お疲れさまでした。 (2018年9月14日 5時) (レス) id: dc73ea1538 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉 - お疲れ様でした！ (2018年9月13日 18時) (レス) id: c46d432f11 (このIDを非表示/違反報告)
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